2024年第138便₋1
春から初夏に向かう北摂協同農場
今年に入って2~3日ごとに雨が降り気温も安定しませんでした。急に夏日が記録されたり4月になっても低温が続いたり、野菜たちも生命の危機を感じ花芽を持ち種を残そうとするトウ立ち状態になってしまう葉物類が多く出ました。特にほうれん草、小松菜が多く、ネギはネギ坊主が葉の背丈が伸びないうちに頭をのぞかせています。
能勢では4月に例年よりは早めに桜が満開となりました。桜並木も美しいのですが「こんなところにも桜があったんだ!」と気づかされるほど山々のあちこちに咲いている桜。緑の中にある薄ピンクの花たちが、山々を見ているだけでやさしい気持ちにさせてくれます。
桜の花の後は薄紫の藤の花が目を楽しませてくれます。
雨が続いて降ると畑の耕起・畝立てが出来ず種まきや苗の定植も進みません。種まきの時期を逃した葉物類や、こかぶ等は5月上旬の出荷には間に合いませんでした。
朝晩の冷え込みと深夜にしっかり降る雨で農作業の段取りは狂いっぱなし。季節を感じる花々を愛でながらも、なかなか厳しい春を過ごし稲作稲苗の準備に取り掛かりました。稲作の苗づくりのために種籾の「のげ」という角のように出ているところをゴリゴリしごいて落とし、塩水につけて比重の軽いものと、重いものを分ける「塩水選」という作業でよい籾を選抜します。それから流水に漬けて積算温度100度になるまで保管。その後、トレイに土を敷いた苗床に籾播きをします。今年は新規就農者で初めて米作りに挑戦する若い農家と、毎年一緒に籾播きをしている生産者と3組で協力して作業を行いました。
米作りには、籾播き機、代掻きのトラクター、田植え機、コンバイン、乾燥機、籾摺り機、計量器などの機械類、そしてそれらを保管する倉庫などハード面でいろいろな準備が必要です。そのことが若い新規就農者が取り組むには高いハードルとなっています。しかしながら、米作りは水路を守り確保するためにその地域・地区での水源確保・水路溝掃除などを協同作業で毎年確実に実行され、田畑を守るのは重要な作業でもあります。田に水を張ることでその地域の保水力を高め安定させるということも重要です。
また、地域の人たちと一緒に作業することは地域全体のコミュニケーションが取れる場でもあります。「我田引水」という言葉のように、自分の事だけ考えていてはダメで、皆で作業し協力することの大切さを実感します。米作りを通じ、地域の環境を皆で守っていくことの重要性を感じ、若い生産者にもトライできるように、また経験豊富な稲作農家に声掛けし、次の世代へその技術が継承されていくようなチャンスを作っていきたいと出会いの場を広げています。
水路掃除が終わるとそれぞれの圃場に水が引き入れられ あちこち湖と化した田んぼに初夏の青空と新緑鮮やかな山々が映し出されます。
5月上旬から6月には、カエルの合唱に負けじと田植えが始まり、短期間の湖はグリーンのじゅうたんとなり、稲苗が風に吹かれている風景を目のあたりにすると、両手を広げて深呼吸してしまいます。
そんな春から初夏への変化を感じながら夏作のトマト、キュウリ、ナス、かぼちゃ、冬瓜などの夏の野菜苗の定植を進めています。昨年の11月に植えた玉ねぎの収穫も5月中旬から6月上旬にかけて収穫します。今は、5時過ぎからの収穫後、その日の9時までに袋詰め・出荷するキヌサヤ、スナップエンドウ、実エンドウなど豆類で大忙しの日々です。早朝は肌寒く、立ったり、座ったりしながらハサミでの収穫作業は無料の朝のトレーニングです。これで朝採りの美味しい豆類を会員の皆さんにお届けできると自分を励ましながらこの時期を過ごしています。
他のお仕事もそうでしょうが農業も段取りが大切。やりたい作業のためにたくさんの前準備が必要です。お天気の様子を見ながらすべき仕事の段取りと、さらにその前の段取りも考え進めていかなくてはなりません。生産者の80代、90代である先輩方がお元気で、計算も早く、パワーがあるのは、この先々を考える仕事の仕方によるものではないかと思います。春夏秋冬どの季節を切り取っても先の先を思い描きながら今の仕事に取り組む姿勢。
追われるような忙しい季節の春から初夏の能勢ですが、美しい自然と共に作業できる季節でもあります。
(北摂協同農場 安原 貴美代)