2025年第144便₋1
「あかうし」を増頭していくためには…
現在能勢農場に在籍しているあかうしの繁殖牛は59頭となりました。内訳は高知県の「あかうしの丘牧場」の預託先に8頭、岡山県の「ゆめファーム」に40頭、能勢農場に9頭と将来繁殖牛として育てている2頭を合わせて11頭をそれぞれのところで飼養しています。
能勢農場の繁殖牛は今年4頭を出産しました。「あかうしの丘牧場」は5年前より、預託牛から産まれた牛を兵庫県の「能勢農場 春日牧場」に肥育牛として引き渡しています。「ゆめファーム」では産まれた牛を来年1月より引き取ることにしています。能勢農場がよつ葉のカタログで扱う牛肉素材として、能勢食肉センターに毎月2頭ずつ出荷を始めたのが2024年3月からで、その中には「あかうしの丘牧場」で産まれた牛や能勢農場で10年間飼養している繁殖牛2頭から産まれた牛も出荷されています。将来はすべての出荷牛をあかうしにしていこうと考えていますが、まだまだ先になります。
何故あかうしなのか? 昔から日本では、牛は家畜として人間の営む生活に寄り添って生きてきました。それこそ数十年前、畑や田んぼを耕すときの農耕用として、トラクターや耕うん機などが普及するまで作物を作るために働いていました。農耕用機械の普及と戦後アメリカ軍が第2次大戦時に製造していた穀物の処分のために、日本の食生活を現代のような食生活へと変えていく過程で牛の役割が大きく変わりました。現在では酪農で牛乳を搾り、肉用として牛を育てています。牛の役割がお金を得るための道具として変化してきました。もちろん能勢農場もそこから大きく外れているわけではありません。ただ、牛が家畜としての役割を自然の中で担ってもらえることもできるのではないかという思いもあります。
能勢は山に囲まれた地にあり、農場も周りを山に囲まれています。ただし、管理された山ではなく戦後から高度経済成長期の材木が高値で取引されていた時代に植林されたスギ・ヒノキが大きくなり、それと同時に雑木も大きくなって光が地面まで届かず、木が密植しているために木の根がしっかりと張っていないため、大雨の時に土砂崩れが農場の宿舎のそばで起こりました。危険な土地を放牧地に変え、牛を放牧することで山を管理できないかと思い、実際に高知県で放牧されている「土佐あかうし」を選ぶことにしました。「土佐あかうし」は足腰が強く、粗食にも耐え、従順でおとなしい性格であることも選ばれた理由です。そんな「土佐あかうし」も個体数がかなり減少し高知県のブランドとして復活してきたものの和牛全体の0.2%しかいません。それが出荷牛をすべてあかうしに変えることができない要因の一つです。
能勢農場で出荷されている牛は1年間で約160頭です。高知県の家畜市場は奇数月の25日と決められており、その時に出荷されるあかうしは30~40頭と少ないため市場からの導入は制限されています。そのため本来、譲渡が禁止されている凍結精液を特別に分けてもらって自家繁殖を行うことができています。とはいえ牛は種がついてから出産まで10か月かかり、1年1産となると単純計算で繁殖牛160頭が必要となります。それだけの頭数を飼養する場所の確保は簡単ではありません。そして、農場の繁殖技術やそれを担う人材の育成にも時間がかかり、山の管理をしてもらうための放牧地の確保も簡単にはいきません。
現在月に1回「能勢里山愛好会」という団体を7名(地主の方2名と京都で林業に従事していて山の管理を教えている方1名、北摂ワーカーズから2名、農場2名)で昨年立ち上げ山への知識を学んでおり、ゆくゆくは地域の中で様々な方と協力しながら山や自然の管理をする活動につなげ、放牧地を確保しようとしています。なかなか大変で時間のかかることを始めたなと思う反面、楽しみな事業であるとも思っています。時間がかかる分だけ世の中の動きがどのように変化していくのか、その変化の影響を受けずにはいられないこともありますが、基本姿勢は変えずにやっていこうと思っています。
(能勢農場 道下 慎一)

