2023年11月号(151号)-3
パレスチナ・イスラエル戦争
市民社会が果たすべき役割を考える
特定非営利活動法人 パルシック
10月7日にパレスチナ・ガザ地区の抵抗勢力ハマスによるイスラエル側への奇襲攻撃があり、直ちにイスラエル軍からの無差別ミサイル攻撃が展開されています。暴力の応酬は現在も続き、双方で多数の民間人が日々刻々、犠牲となっています。
現地時間10月20日時点で、双方の死者は合わせて5,000名を超え、負傷者はイスラエル、ガザともに17,000名を超えています。このうちガザ地区での負傷者約12,500名のうち、7,200名以上は女性もしくは子どもです(※国連パレスチナ難民救済事業機関による)。さらに瓦礫に埋まっている被災者の救助もままならないガザでの死傷者数は、今後もっと大きくなることが容易に想定されます。
パルシックは双方の犠牲者、特に子どもや女性を含む民間人の犠牲に、心より哀悼の意を捧げます。多くの民間人を巻きこみ、無差別に殺戮(さつりく)する暴力行為は、国際人道法違反です。私たちはハマスとイスラエル双方に対して即時の暴力の停止を求めています。
天井のない監獄
ガザ地区は幅7~8km、長さが10kmほど、面積でいうと種子島と同じ小さな地域に230万人が住む人口過密地域です。2007年以降イスラエルに軍事封鎖され、「天井のない監獄」と呼ばれてきました。人びとはガザ地区の外に出ることを禁じられ、物流も制限されて慢性的な困窮状態に置かれてきたのです。
避難する場所も限られているこの小さな地域で、ガザの人びとはイスラエルから何度も攻撃を受け、数年おきに大規模な衝突も勃発してきました。今回の戦争が始まってから、水や食料、燃料、通信などのインフラもイスラエルによって遮断され、深刻な人道危機に陥っています。
さらにイスラエル軍によるガザへの地上侵攻が迫っており、イスラエル軍はガザ北部の住民約110万に退避を勧告しました。残っている住民はハマスと見なすと通告しています。この勧告によって北部に住む10万人ほどが南部に退避しました。しかし激化する空爆によって道路は破壊され、移動手段もないなか、お年寄りや病人を抱えての退避が困難な家族は北部に取り残されています。安全かと思われた南部地域、退避路周辺もイスラエルの爆撃を受け、退避中に爆撃で亡くなった方もいます。退避した後も、水も食料も電気もなく、安全な避難所もない場所に留まって過酷な状況で空爆におびえるよりも、「自分の家で家族と一緒に尊厳のある死に方をしたい」と北部に戻る方々も増えています。
今後の戦争の行方にもよりますが、ガザ地区が現在の領域から大幅に縮小される恐れがあり、ガザの人びとが再び難民となる可能性があります。つまり停戦となってもガザの人びとがガザで元の生活を取り戻すことができるのかも見通せない状況です。しかしそもそも「天井のない監獄」状態に戻ることを目指していいのでしょうか。
また今後、ガザ地区南部のエジプトに接したラファ検問所(※10月20日現在は人道支援のための救援物資の搬入もできてはいません)が開いたとしても、停戦合意のないまま戦火で追いたててガザの人びとを国外に避難させることは、国際法違反の強制移住につながりかねません。イスラエル建国の1948年に、元々この地域に住んでいたアラブ人は暴力により故郷を追われ、70万人以上がガザをはじめヨルダン川西岸地区、また近隣諸国に避難して難民となりました。パレスチナの人々はこれをナクバ(大災厄)と呼びます。今年はナクバから75年です。さらに1967年の第三次中東戦争の結果、パレスチナはイスラエルの軍事占領下に置かれたまま、50年以上がたちます。この間イスラエルはパレスチナ人の土地を奪いながら、国際法を違反してユダヤ人入植地を拡大してきました。
人間らしい尊厳ある生活を送れるように
パルシックは2014年のガザ侵攻後に、ガザ地区での被災者緊急支援を実施しました。その後は軍事封鎖のなかでもガザの人びとが少しでも人間らしい尊厳ある生活を送れるように、復興支援に重点を移し、2018年からは酪農・畜産農家を対象に生計支援を行ってきました。そこには羊の飼育を学びながらチーズを生産して家族の生活を支える女性たちがいます。またヨルダン川西岸地区でも、2016年から廃棄物を農業生産に生かす循環型社会の事業を進めています。地域内で生ごみから堆肥をつくり、オリーブや野菜などの有機栽培に利用できるよう地域の人びとと努力を続けてきました。私たちはこうした女性たち、男性たち、子どもたちが生き延びていてくれることを祈っています。そして停戦とともに活動が可能になった段階で、パルシックは被災した人びとへの緊急支援を行います。すぐに緊急支援物資を送るために、現地と調整し情報収集を続けて準備中です。(*4面「INFORMATION」欄に緊急支援のお願い)
同時に、今回の惨事の背景として、長い間占領下でイスラエルによって日常的な暴力や逮捕、人権侵害を受けつづけ、普通に尊厳のある生活を送ることができない状況に押し込まれ、世界から忘れられたと感じているパレスチナの人たちがいるということに、私たちはきちんと向き合う必要があります。パレスチナ人の友人と話をすると、「パレスチナ人の血はもう十分に流された、これ以上もっと流せと言うのか。国際社会から見捨てられてきた。これ以上、この状況が続くと本当に何が起きるかわからない」と悲痛の面持ちで言われます。
高度に政治的な解決が必要とされる問題ではありますが、イスラエル側もパレスチナ側も一般の市民が多く巻き込まれる、このような悲惨な暴力の連鎖が繰り返されない社会の実現のために、私たち市民社会もやるべきことがあると考えています。まず今皆さんがこの記事を読んでくださったように、関心を持つこと、そして一過性のものとしてではなくその関心を持ち続けて、虐げられた人びととの連帯の声を一緒にあげてくださるようお願いします。
ガザ地区ハンユニス県女性組合が
生産するチーズの試食イベント
オリーブの収穫体験
■特定非営利活動法人 パルシック■
地球の各地で暮らす人とひとが、国家の壁を越えて助け合い、支え合い、人間的で対等な関係を築くことを目指して活動するNGOです。国際協力とフェアトレードを主な活動内容としています。特に紛争や近年頻発している自然災害によって、自立的な発展を阻まれた人びとが、暮らしを取り戻すことに協力する活動を重視しています。