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よつ葉ホームデリバリー

2023年12月号(152号)-1

「よつ葉あかうしプロジェクト」
牛が生きものとして人と共存できる場を

    

能勢農場 寺本陽一郎

 

能勢農場の放牧野で仔牛を見守るような母あかうし

能勢農場の放牧野で仔牛を見守るような母あかうし

 

 

 

  よつ葉の牛を肥育している能勢農場では、以前より扱っていたF1種(交雑種)からあかうしを育て持続的な出荷をする準備をしてきました。2015年に高知県から仕入れ放牧や出産など、さまざまな試みを重ねてきました。ようやく来春から和牛あかうしの牛肉を会員の皆さんへの定期的なお届けが始まります。食味の特長としては赤身に旨味があると言われていますが、性格が穏やかなこともあり、食用となる以前には使役牛として育てられてきました。そのような性質から能勢のような山間地での放牧にも適しています。まだまだ敷地は狭いですが、大阪府下でも放牧をしている畜産農場はここだけになります。食べていただくのはもちろんですが、ぜひ一度、能勢農場に見に来てください。

 

 

人の日常生活に寄り添う牛のいとなみ

 

 能勢農場が営む畜産の考え方の基礎には、「よつ葉がめざす畜産ビジョン」という指針があります。この畜産ビジョンが策定された2006年以降、稲ワラ粗飼料化事業、「地場牛」、そして酪農家と協同してF1仔牛(初生)からの一貫生産とトレーサビリティ(*「よつ葉がめざす畜産ビジョン」4面参照)などに取り組んできました。
できるだけ地域内での自給飼料の生産と顔の見える関係づくりを重視してきましたが、よつ葉の畜産ビジョンが策定された当初から「いつかは野に牛を放し、放牧をやってみたい」という想いがありました。放牧というとやはり北海道や東北といった広い高原に白黒のホルスタインが草を食んでいる光景が思い浮かび、「中山間地の能勢での放牧はやっぱり難しいかな」と半ば諦めていたのですが、そんな想いを払拭してくれたのが、一冊の本との出会いでした。(『和牛のノシバ放牧・在来草、牛力活用で日本的畜産』上田孝道著)
その本には今から60 年ほど前まで牛(和牛)は食肉用というよりも人間社会のなかで労働力として飼われ、主に農耕作業や運搬など重労働となる部分を役用として、人の日常生活に寄り添いながら生きていました。この役用を目的とした牛の飼養は7世紀(675年)に肉食禁止令が発令されて以降、実に1200年近くにわたって連綿と続いてきました。
またこのように牛を役用として活用しながら、全国各地で放牧をベースにした飼育管理の技術や知見が何代にもわたって引き継がれていました。それが戦後の復興に伴う拡大造林政策の影響で、全国に点在する放牧野は次々と姿を消しました。牛もトラクターやトラックなどが台頭するなか、役用から役肉兼用、そして肉専用牛へと大転換し、今のように牛=食べもの(食肉)へと人々の意識も変化していきました。
しかし少数ですが、今でも牛の蹄耕(注1)や採食などの能力を活かして山や河川を管理しながら、自然に負荷のない森と牛とが共存し合ういくつかの牧場がこの本にも紹介されていました。そしてそれら牧場を視察に回りながら上田孝道氏が執筆活動の拠点にしていた高知県畜産試験場にも訪れたのですが、その場内では今も林間放牧や育林放
牧(注2)などの試験が実践されていました。

 そうした現場を目の当たりにするなかで、能勢でも山の地形を利用しての放牧が可能だと分かり、2015年に高知県畜産試験場が考案する〝シバ草地造成法〟と土佐あかうし2頭を能勢農場に隣接する荒廃山林に試験導入し、4年かけてシバ草地が完成し、荒廃地を緑化(シバ草地)するのに必要な技術と知見を得ることができました。

 

生命を育む事業として

 

 この試験事業を通して改めて感じたことは「牛を今のようにただ肥育して食べものとして利用されるだけではなくて、人間社会のなかで多様な役割を持ち、昔のように人びとの暮らしに寄り添うような存在として現代に蘇らせてみたい」という思いでした。そこで今年からこれまでの試験事業を「よつ葉あかうしプロジェクト」と命名し、本格
的な事業化に向けて取り組むこととなりました。
具体的には今年の1月からすでに和牛あかうしの増産が始まっており、来年の3月からカタログ「Life」で交雑種(F1)との併売でスタートし、これを機に牛種を和牛あかうしへと徐々に切り替えていく予定です。ですが、この事業は単に牛種が替わるというだけに留まらず、私たちが目指してきた「よつ葉の畜産ビジョン」の指針に最も
近い現場づくりがこのプロジェクトの中心です。つまり牛の活用を食肉のみにせず、役畜として山や森を管理して、地域の環境保全に寄与(貢献)し、人間社会のなかで共存できる場を創造していきたいと考えています。
まだまだスタートしたばかりで母牛(繁殖牛)の増産や放牧野の拡大造成など、今後5年から10年をかけて取り組んでいく事業となります。この活動を通して家畜は食べものである以前に生きものとしての時間があるということを忘れないために、また生命を育む事業としてゆっくりと育てていきたいと思います。みなさんも応援をよろしくお願いします。

 

(注1)安価に牧場をつくる方法の一つ。樹木の伐採はするが、切り株などを抜かない。切り株の下に穴を掘るなどして、小動物が住みつきやすい環境もつくる。
(注2)林間放牧は人工林に和牛を放牧し、林地の下草を牛に食べさせることで粗飼料軽減・省力化を図る。育林放牧は林業面での労力軽減を考えた放牧形態のこと。

 

 

 

新人研修で「あかうしプロジェクト」の話をする寺本さん

新人研修で「あかうしプロジェクト」の話をする寺本さん

 

 

 

「よつ葉のあかうしプロジェクト」
牛が生きものとして人と共存できる場を
             寺本陽一郎