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よつ葉ホームデリバリー

2023年9月号(149号)-3

食料難を救う救世主!?
ゲノム編集とらふぐふるさと納税返礼品

井口NOCO(麦のね宙ふねっとワーク)

 

初めまして! 京都府宮津市の「麦のね宙ふねっとワーク」です。関西の皆さんには日本三景天橋立のあるところ!の方がなじみがあるかもしれませんね。一度は足を運び、リフトに乗って山の上から股のぞきをしたことがあるのでは? 海水浴に温泉、新鮮な地魚に舌鼓。そんな風光明媚な小さな海の町で起こっている大変な出来事をお伝えしたいと思います。

皆さんはゲノム編集を知っていますか? 食の安全にこだわっていらっしゃるよつ葉会員さんでしたら、すでに詳しいかもしれませんね。ちまたではどうも、このゲノム編集が「SDGs、サスティナブル、果てには食糧難を救う救世主!」と聞こえのいい言葉であがめ奉られ、メディアは良いところだけを切り取り報道し、人類にとって良いものと思っていらっしゃる方も多いかと思います。神の領域に迫る画期的な技術。それは医療の分野や、ある一部の人にとっては良いものかもしれませんが、果たして消費者である私たち、子どもたちにとって本当に良いものなのでしょうか? 遺伝子を操作することに、リスクはないのでしょうか。

私は宮津で釣り船の船長と釣魚を食べられる飲食店をやっていて、遺伝子組み換え食品などに関心があり、ゲノム編集されたマダイの写真を見たら、奇形のような姿。切り身なら分からないから、回転寿司などで使われるとのこと。「ゲノム編集魚って怖いな…。これはアカンやつやな」と。お店を開店して半年、2021年の12月。「OKシードプロジェクト」の印鑰(いんやく)智哉さんのSNSで、「宮津市がゲノム編集とらふぐをふるさと納税返礼品に!」と書かれていてびっくり! 私もご近所さんや漁師さんや議員さんに聞いても、誰もゲノム編集の施設が宮津にあることさえも知りませんでした。市長のSNSではこの技術や企業に対する絶賛の言葉がズラリ…。「一体何がどうなってるの?」と市役所へ。企業を誘致した担当者さんが対応してくれましたが、「企業秘密、国が認めている」の一点張り。

 

農水省や厚生省も責任のたらい回し

このゲノム編集とらふぐを養殖、販売しているのは、京都大学のベンチャー企業、「リージョナルフィッシュ社」。同大学教授の木下CTOと元コンサル会社員、昆虫食の会社を立ち上げていた梅川CEOが共同経営、本社は京都大学内にあります。養殖施設があるのは、京都の食を支える、宮津の水揚げ場のすぐそば。海と隣接していて、いけすと海は網が数枚あるだけでつながっています。

排水や薬品や死んだ魚のことなど聞きたいことがいっぱいで、メールを送ったところ、総務マネージャーとして登場したのが、農林水産省からのレンタル社員。身分を隠し、「私たちは農水省から賞ももらっている」と自作自演のようなやり取りのあと、彼らはデジタル庁に戻りましたが、その後「リージョナルフィッシュ社」からの連絡は途絶えてしまいました。このことからもゲノム編集は国策として進められ、都合の良いように認可も表示もなく流通できると決められてしまい、近隣住民や漁業者に知られて反対の声が挙がる前に、ふるさと納税や賞を取った安心な食べものだという既成事実を作りたいのだと分かりました。

では、国は? 農水省と厚生省に問うたところ「当該生物について国は責任はとらない」「安全審査の内容、審査員についても非公開」ということでした。環境省は「魚が逃げ出したら回収すると、企業が届出をしている」と。いくら遺伝子組み換えではない、品種改良と同じと言われても、誰がどうやって責任を取るか分からないものの流通を認めてしまっているの? 責任のたらい回しにクラクラ、当の企業は何度お願いしても住民説明会も開かず、施設の見学もさせず。その間に国や企業からの数10億円の投資や支援金を受けて、全国に陸上養殖施設を作り、「リージョナルフィッシュ=地魚を作る!」と息巻いています。

 

海の恵みで生きてきた私たちの願い

「私たちのできることは小さいけれど、まずは知ってもらおう!」とふるさと納税返礼品からの取り下げを求めて署名を開始し、全国からたくさんの応援をしていただき、10661筆も集まりました。しかし市長は受け取りを拒み、市民の声を聞かずに推進に突き進む道を選びました。署名が最も多かったのは、とらふぐで有名な山口県下関市。自分たちの大切な魚を、大した漁獲もない地で地場産品としてふるさと納税に出されたら、たまったもんじゃないですよね。全国にゲノム編集陸上養殖が広まれば、このような新たな問題が起こるのは目に見えています。このままでは大好きな宮津市が、他県の漁業者さんからも疎まれ、ゲノム編集魚発祥の地になってしまう。何よりここで奇形の魚を作りだして欲しくない!

「なんとか歯止めを」と今年の3月に心ある紹介議員さんたちと一緒に請願を出し、何度も委員会が開かれ、私たちと「リージョナルフィッシュ社」の参考人招致もあり、結果、「施設の見学や市民への周知がされていない」と継続審査になりました。しかし6月、市はたった50人限定の推進一辺倒の人たちのみの講習会を開催、市民から多くの不安の声が挙がったにも関わらず、市民への周知が終わったとして6月議会で請願は否決されました。「子どもには食べさせたくない、リスクがある」と言っていた議員さんたちも大きな力に抗えなかったのでしょう。

それでもこの間に映画の上映会や、講演会を開き、宮津市民や地魚を扱う飲食店からも、少しずつ反対の声を挙げてくれる方が増えました。議員会館にも陳情に行き、数名の議員さんが国会でも取り上げてくれました。9月23日には京都市内で大きな市民集会を開きます。この問題は宮津市だけでなく、全国のどこでも起こる可能性があります。表示がなければ選ぶこともできません。消費者の皆さんに「食べたくない、食べさせたくない! 作らないで!」と声を挙げてほしい。どうか未来の食卓にいつまでも自然な食べものが並び、大人も子どもも健康な体が育まれますように。海の恵みで生きてきた小さな町に住む私たちからの願いです。

 

■麦のね宙(そら)ふねっとワーク■

宮津市でゲノム編集とらふぐがふるさと納税返礼品に出品されたことをキッカケに結成。会の名前は中島みゆきさんの麦の唄、宙船から命名。自然農を営む矢野と釣り船の船長NOCOを中心に、「踏まれるほど強くなる!」「自分のオールを渡さない!」宮津の自然と地魚を守るため、麦の根活動を展開中。