2024年10月号(162号)-1
未来の子どもたちのために
能勢地域での環境再生型農業の取り組み
自分たちが生業(なりわい)としている農業や子どもたちの未来を考え、崩れつつある生活環境(地球温暖化、気候変動など)に立ち向かうために、自分でできることを考える。吉村農園の呼びかけから環境再生型農業をみんなで共有し、さらに推し進めるため、能勢の5軒の農家で「りじぇねくらぶ」を発足しました。まずは気候危機などを解りやすく知ることができる映画『君の根は。ー大地再生にいどむ人びと』の上映と吉村農園より被覆植物を用いた「脱・プラスチックマルチの実践」の現状報告会をはじめ、学習会を重ねています。生態系を守り、地球温暖化へ進まない再生可能な農業のために自分にできることを考えながら、今後も能勢地域での取り組みを多くのひとに拡げていきたいと思っています。
(北摂協同農場 安原喜美代)
SHOファーム見学会にて
共有し、励まし合う仲間たちと
吉村農園 吉村次郎
こんにちは、能勢の吉村農園の吉村次郎です。日頃は地場野菜の生産者の一人としてよつ葉さんに出荷させていただいています。今日は能勢で始まった「りじぇねくらぶ」の取り組みをご紹介させていただきます。その前に、大前提となる気候危機の話からさせてください。
最近は各所で取り上げられているので詳しく書く必要はないかと思いますが、一番の問題はティッピングポイント(TP、閾値〈いきち〉)がすぐそこに近づいているということです。TPを超えるとドミノ倒しのように状況が悪化することを意味しますが、気候危機の場合1・5℃~2℃の間にあると言われています。
2023年の世界気温は1・45℃を超えていて、パリ協定の努力目標である1・5℃は絶望的、2℃目標でさえほとんど絶望的と言えます。「今年の夏は異常に暑かったなぁ」なんてのん気に言っていますが、僕の3歳と1歳の子どもたちにとっては今が一番涼しいことになります。
自然の生態系に近い圃場
そんななかで、世界的に広がりつつあるのが環境再生型農業です。不耕起、被覆植物、輪作混作、の3原則にプラス家畜を取り入れるやり方です。むやみに耕さず多様な植物を植えることで、自然の生態系に近い環境を圃場につくってしまおう、というイメージです。土壌に有機物を蓄え(炭素を固定し)、生物の多様性は育まれ、肥料や燃料をほとんど投入する必要がない農業。そんなやり方で本当に作物ができるのか?…できると信じてチャレンジしている段階ですが、思ったより時間はかかるかもしれません。なにせさんざん何十年も耕し続けて痛めつけられてきた土地が回復する
僕はリンゴの木を植える
北摂協同農場さんと協力して環境再生型農業を拡げるために、昨年来いろいろ取り組んできました。「りじぇねくらぶ」はそのなかから生まれた有志の農家の集まりで、LINEグループを作って情報交換などをしています。今までのやり方とは全然違うので失敗が当たり前なのですが、それを共有して励まし合う仲間がいるのといないのでは大違いです。小さいけれどここから何かいいものが積み上がっていけばいいなと思っています。
「たとえ世界が明日滅びるとしても、僕はリンゴの木を植える」。
吉村家の皆さん
目の前のことをクリアにしていきながら
須美ふぁーむ 今堀淳二
今堀さん(人参畑の前で)
先進農家さんや先輩農家さんから環境再生型農業のことを教えてもらい興味を持ちました。環境再生型農業は脱プラ・脱炭素など、より環境のことを考える農業スタイルです。ぼくは有機農業を営んでいますが、それでも案外化石燃料や石油由来の製品を使います。
ある程度の品質・収量を確保しようとすると、トラクターなし・マルチなしでは「農業を営むことが難しいだろうな」と感じるのですが、同時に今のやり方が20年30年先も同じように続けられるのか、それにもまた不安を覚えています。地球温暖化が進み、私たちの生活環境はどんどん変わってきています。
できる限り化石燃料やビニールマルチを使わない方法を今から模索していった方がいいのではないか、そんな思いから環境再生型農業に取り組み始めています。見聞きしたことを実際にやってみてですが、今のところ感覚がつかめていないというのが正直な気持ちです。草などの有機物で土の表面を覆い、それが草押さえになり養分になる。理屈は分かるのですが、実践ベースでのノウハウがまだ圧倒的に足りないなと。
どの業種もそうかもしれませんが、ずっと同じやり方が通用する、ということはありません。環境が変わり状況が変わると、それに応じてやり方も少しずつ変えて適応していく必要があります。短期的には目の前のことをクリアしていきつつ、中長期的に環境再生型農業の可能性を探っていきたいと思います。
能勢地域での環境再生型農業の取り組み