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よつ葉ホームデリバリー

2024年10月号(162号)-3

機能性表示食品は廃止を含む抜本的改善を

 

佐野真理子(食の安全・監視市民委員会)

 

今年3月に発覚した死亡者を含む重大な「紅麹サプリメント」事故。製造販売者・小林製薬の責任が厳しく問われる一方、事故を起こした商品が機能性表示食品だったことから、制度への社会的不信感も高まり、危険性を放置してきた行政の無責任な姿勢が制度の問題点とともにあぶりだされました。
 
政府は5月31日に機能性表示食品制度などに関する今後の対応策を公表しました。主な対応策は健康被害情報の報告義務と製造・管理上のGMP(製造管理規範)の義務化、その確認のための消費者庁による立入検査の実施などです。
 
しかし、9月にスタートした健康被害情報の報告義務化には、事業者から収集した被害情報を消費者に提供・開示する仕組みがすっぽりと抜けています。事後チェック買上げ調査の対象食品数を拡大することも決定されましたが、調査結果を公表する制度的保証はありません。さらに安全性確保のためのGMPの義務化導入は2年後の9月です。スピード感はなく、消費者目線が欠如した目先だけの対応策だと言わざるを得ません。

 

安全軽視の規制緩和 法的拘束力のないガイドライン

 

 2013年1月、安倍政権のもと内閣総理大臣の諮問機関として「規制改革会議」(現・規制改革推進会議)が設置され、同年6月に第1次答申を提出。そのなかで「健康・医療分野」に一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みとして、機能性表示の容認を求めたのが機能性表示食品制度スタートのきっかけです。当時の安倍晋三首相が掲げた「世界で一番企業が活動しやすい国」の成長戦略の一環としての導入です。食品は医薬品と異なり効能・効果は表示できませんが、その規制を取っ払い、食品であっても機能性(効能・効果)を表示できるようにすることが目的でした。
 
それまでは国が審査し、食品ごとに消費者庁長官が許可する特定保健用食品(トクホ)(右図中 ※Ⅰ)及び、国の個別審査の必要はないものの、ミネラル、ビタミン、脂肪酸など指定20種類の特定栄養成分の補給を目的に、その定められた基準量を含んでいれば機能性を表示できる栄養機能食品(※Ⅱ)がありました。これらは「保健機能食品」と総称されています。ここに国が関与しない機能性表示食品(※Ⅲ)が追加されることになったのです。トクホは申請・認証の根拠データを揃える試験のために数億円が要されます。個別許可を受けない機能性表示食品はデータ収集費用などが中心となり、数百万円で足りる、事業者にとってどんなにか魅力的だったことか、推測されます。
 
この制度は2015年4月1日に施行予定だった食品表示法の食品表示基準2条に「機能性表示食品」を加え、法的拘束力のない「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)で運用することとなりました。しかし、このガイドラインの内容が決定したのは、同制度スタートの2日前。消費者庁は制度の説明会を各地で開催しましたが、事業者からの多くの質問に答えることもなく、見切り発車での運用となりました。 消費者庁に決められた書類を届け出るだけで、機能性が表示できる新しい制度は世界に例のない甘い制度として、慌ただしく導入されました。

 

安全性を含め事業者任せの制度

 
この制度の核心は「企業の責任による科学的根拠に基づく表示届出制度」にあります。機能性表示食品のパッケージにはあえて「消費者庁が審査・許可したものではありません」との表示が義務づけられています。被害が発生しても国の責任ではありません、事業者と消費者の自己責任です、と強調しているようなものです。
 
2023年6月、表示されている機能性に科学的根拠がないとして景品表示法違反となり届出事業者が行政処分を受けるという事件が起きました。その直後、同じ成分を使い、同じ機能性を表示していた機能性表示食品88品目の事業者が一斉に届出を撤回するという出来事も発生しました。多くの事業者が自ら販売する機能性表示食品の科学的根拠を証明できないことが分かったのです。
 
事業者が届けでた科学的データは消費者庁のサイトで公開されていますが、その科学的データ自体、信頼性に欠けるものであるという制度の問題が鮮明となりました。安全性は二の次、食べる消費者のことも二の次、機能を示すデータも信頼できない、そんな制度の特徴がより明らかになったのです。事業者利益を重視した規制緩和がもたらした重大事故、それが今回の紅麹サプリメント事故と言えます。
 
先に述べたように、政府は機能性表示食品制度などの今後の対応策で、健康被害の報告義務化など「義務化」項目を導入することによって、以前に比べ、行政機関が関与する範囲を拡大させることにしました。今年9月には従来のガイドラインが「マニュアル」へと変更し、来年4月にはその内容が「告示」として制定されることも予定されています。これも今後の行政関与の拡大を予想させます。
しかし結局は「届出制度」を前提とした「事業者任せ」という制度の根幹に変更はありません。

 

制度の廃止と新しい法律を求める

 
 食の安全・監視市民委員会は食品事故の発生・拡大防止と被害者救済を実現するために、各地の消費者・市民団体とともに、事業者任せの機能性表示食品制度そのものの廃止を求め、連携した取り組みを展開しようと呼びかけています。消費者にとって、一見医薬品のようなサプリメント形状の健康食品などを食品と認識するのは難しく、これらを食品として販売していること自体に問題が多いと考えます。機能性表示食品の半数以上がサプリメント形状の食品です。
 
そこでサプリメント形状食品に関する新規法制度の制定をはじめ、CM・広告表示の規制、情報公開の保証、食品被害救済制度の導入などを盛り込んだ共同アピールを提起しています。