2024年12月号(164号)-4
2024年、農や食にまつわる気になる動きを振り返る
山口 協(地域・アソシエーション研究所)
2024年も残り少なくなってきました。今年も1年を振り返り、農や食にまつわる気になる動きについて考えたいと思います。
●紅麹サプリメント問題
上半期の大きな出来事として、小林製薬の紅麹サプリメントによる健康被害を挙げることができます。死者を伴う深刻な健康被害が明らかになって以降、半年ほど原因が分からずヤキモキさせられましたが、9月になってようやく厚生労働省は青カビが混入して作られたとみられる「プベルル酸」が原因物質とほぼ確定。その背景に製造元のずさんな工程管理があったことが判明しました。この件を巡っては製造元の責任はもちろんのこと、本欄前号のように政府の監督責任を問うことも必要です。それに加えて、消費者の主体的な対応も欠かせません。
ネット上ではさまざまな宣伝広告があふれており、かなりの割合をダイエットやアンチエイジング(抗老化)関連の健康食品(サプリメント)が占めています。健康食品は医薬品のように直接的な効能を表現できませんが、いかにも特定の症状・体調に効きそうな雰囲気を醸し出しており、サプリを摂取すれば健康になるような気にさせられます。しかし、含まれる成分が特定の症状・体調に明確に効くなら、それは健康食品ではなく医薬品です。医薬品ならばそれに相応しい治験や認可が必要であり、用法・用量を厳格に守らなければなりません。逆に言えば、健康食品がそうした手続きを不要とせず手軽に利用できるのは、医薬品のような効能がないからです。
ただ、何の効果もないと断言もできません。伝承された食経験は尊重すべきものがあり、自己暗示などで自然治癒力を引き出す「プラセボ(偽薬)効果」が生じる場合もあるからです。そのため、科学の観点からすると、逆に何の効果もないと言い切ることはできないのです。こうした状況をいいことに、依然としてサプリの宣伝広告は消費者の健康願望を刺激し続けています。もちろん、健康食品やサプリを全否定するつもりはありません。問題なのはあたかも医薬品との同一視へ誘導するような業界のあり方です。
ここで私たちは改めて明白な事実に立ち戻るべきでしょう。肥満や生活習慣からくる症状は食生活や運動、暮らし方の見直しに勝るものはありません。加齢による不具合もまた然り。「あなたはあなたの食べたものでできている」と言われるように、良質な食材、バランスの取れた食事、規則正しい生活こそが健康を形づくっているのです。
●米不足問題
下半期の大きな出来事は、「米騒動」とまで言われた米不足の問題です。主な原因としては外国人観光客(インバウンド)の激増で需要が増えたこと、南海トラフ警戒情報など自然災害に備えて、買いだめが行われたことなどが指摘されています。ただし、これらは米の需給全体で見れば大した変動と言えず、むしろわずかな変動で需給が逼迫(ひっぱく)してしまう本質的な問題を直視すべきだとの意見もあります。
そこで問われているのが「減反(げんたん)」です。戦後の食糧難を克服するため、日本政府は主食である米の増産を図るとともに流通を管理下に置きました。しかし増産が実現する一方で、時代の変化とともに食生活は多様化し、1960年代になると米の消費量は頭打ちになります。生産量が消費量を上回ると米の値段は下がり、農家にとっては痛手です。政府の買い入れ費用も膨らみます。そのため、1970年からは政府主導で米の生産目標を決め、農家の生産量を制限することになりました。これが減反です。
制度としては2018年に廃止されましたが、その後も政府は主食用米の生産量について目安を示し、米からの転作に補助金も支出しているため、実質的に減反と同じだと言われます。こうして長年にわたって農家の生産意欲を削いできた結果、今日の事態を招いてしまったというわけです。そのため、解決策として、減反をやめて米価を市場に任せるとともに、国内消費で余った分は輸出に回せばよいとの主張がなされています。傾聴に値する部分もありますが、危うさも感じます。市場に任せれば米価は下落するでしょうが、そうなると中山間地の農家や兼業農家は米づくりを辞めざるを得なくなるでしょう。大規模化によるコスト削減で国際競争力は高まる一方、稲作を中心に営まれてきた地方の農村社会はさらに空洞化が進むでしょう。
そもそも、こうした政策以前に考えるべきことがあります。廃棄食品(食品ロス)の問題です。8月27日付『朝日新聞』(電子版)によれば、全国の廃棄食品量は減少傾向にあるとはいえ、それでも22年度で472万t(事業系と家庭の合計)にのぼるそうです。「国民1人あたり、年間で38㎏になり、毎日おにぎりほぼ1個分(103グラム)の食べものを捨てている計算になる」とのことです。「米が足りない」と文句を言う前に、私たちはこうした現実に目を向けているでしょうか。米農家や米づくりの現状について思いを馳せることはあるでしょうか。「あなたはあなたの食べたものでできている」とすれば、その食べものがどのようにつくられるのか、決して他人事ではないと思います。
*4面「編集委員の一言」欄に関連記事
よつ葉の地場農家、東別院町の田んぼ