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よつ葉ホームデリバリー

2024年3月号(155号)-4

 

 

福島有機農業の現状と能勢農場の実践

 

母なる地球を守ろう研究所理事長/

福島県有機農業ネットワーク理事  長谷川浩

 

早いもので、福島の原発事故から13年を迎えようとしています。中通りや会津においては原発事故の後遺症を感じることは格段に減った一方で、原発周辺地域(主に浜通り)では原発事故によって過疎化や人手不足が一気に加速し、復興から取り残されている地域が少なくありません。原発事故によって、いきなり過疎地ができてしまったのです。過疎化も人手不足も福島だけではなく、日本の地方に共通する問題です。福島で課題解決できれば、全国の地方に適用できるかもしれません。一方で有機農業については原発事故から13年間、福島では停滞が続いたのは否めません。有機農業は安全安心をキャッチフレーズにしてきたので、たとえ放射能検査が不検出であっても、一度離れた消費者は戻ってはいません。有機農業のさまざまな課題解決には突破口が必要です。
機会があって、能勢農場を見学させていただきました。そこでは耕畜連携が理想的な形で実践されていました。すなわち、稲作(耕種)の副産物のわらを、肉牛(畜産)の飼料とすることで肉牛を健康に育てることができます。肉牛の糞尿は発酵させて堆肥にしてから、稲作に還元します。循環型農業を絵に描いたような農法が耕畜連携です。理想ではありますが、継続実践するには労力も設備もかかります。それを実現できているのは能勢農場のスタッフのたゆまぬ努力の賜物です。さらに穫れたお米もよつば農産で買い上げており、兼業農家にも後継者がいると聞きました。
江戸時代までさかのぼれば、日本全体が有機農業であったし、福島県には「会津農書」という誇るべき教科書がありました。循環型農業は当然のこととして実践されていました。国は有機農業推進(みどりの食料システム戦略)を発表しました。福島県も新しい有機農業推進計画を発表しましたが、みどりの食料システム戦略では過去の知恵に学ぶ姿勢はほとんど顧みられていません。循環型農業を福島全体に広げる方策について考えながら帰途に就きました。

 

放牧野から牛舎へ帰るあか牛

 

 

 

「今、パレスチナ・ガザで何が起きているのか
                   ~そして私たちにできること」

 

講演:北村記世美(パレスチナ・アマル)・パルシック

 

なぜハマスは大規模な襲撃をし、イスラエル軍は度を超えた激しい攻撃を止めないのか。日々のニュースを見るたびに胸に去来する疑問。まるで私の声が届いたかのような企画だったので参加させていただきました。
パルシックの高橋さんはヨルダン川西岸地区のラマッラよりオンラインで、今回の紛争に至るまでの歴史やこの度の攻撃の前までガザにあった美しい建物や景色の写真を紹介し、現在その大半は破壊され、立ち入りができなくなっていることを話してくれました。現地スタッフの活動の様子も話されましたが、厳しいことも淡々とした語り口だったのが印象的でした。同じくパルシックの吉田さんはヨルダンのアンマンよりオンラインで、羊を育てている方とオリーブ栽培をされている方を支援してきた活動と、厳しい現状を話してくれました。私はパレスチナのオリーブオイルを度々買っていたので、親近感があっただけに胸が痛かったです。
パレスチナ・アマルの北村さんはパレスチナ刺繍で女性の支援をしてこられ、起業のきっかけとこれまでの活動の様子を話してくれました。ガーゼはガザが由来で、良質な織物が盛んな所だそうです。一番驚いたのはパレスチナの男性が頭に被る白地に独特の投網と波の模様がほどこされた大判のスカーフのような布「カフィーヤ」を、日本製の古い織機で織られていたということです。アラファト議長のトレードマークでもありました。ふんわりと触り心地よく丈夫で長持ちする生地で、こんな形で日本とご縁があったのかと感動しました。しかしそれももう織ることができないそうで残念です。
これまでもパレスチナの女性に生活・子育てのための収入になる仕事だけでなく、伝統と文化を伝える技術継承を担っていた「Sulafa(スラファ)」の活動。この度の紛争で刺繍を続ける環境だけでなく、彼女たちの安否すら判らないという厳しい現状を聞き、皆さまの無事を祈らずにはいられませんでした。先の見通しが立たないなか、パレスチナ・アマルで刺繍製品の先行予約をすることにより彼女たちの仕事と希望をつなげる一助になれば幸いです。
今後どのように停戦に向けていくのかは判りませんが、この不条理な出来事が一刻も早く治まり、速やかに復興がなされますように。何より、パレスチナ、イスラエル双方の間にある問題が人類の叡智を総動員して永久に解決されることを願わずにはいられませんでした。大変な状況のなか、報道では聞けない貴重なお話をありがとうございました。

 

 

パレスチナ・アマルのHP

 

 

 

編集委員からの一言

 

  先日、船に乗って定置網漁を見学させていただく機会がありました。海に仕掛けた網を引き上げる作業。まずは網を目指して出港します。ポイントに到着すると、船上員の方々が船の側面に並び呼吸を合わせて、船にロープを巻き付けながら引き上げていく。徐々に網が船に引き寄せられていき、クレーンに吊るされた網で魚が船に積まれていきました。
1時間ほどの乗船でしたが、魚が上がるまでの緊張感、漁師の仕事を少しでも間近で感じることができ、非常にいい経験になりました。
気候変動による海水温の上昇、海流の変化、乱獲、それらが原因といわれている漁獲量の減少。この時期になるとこの魚が獲れるといったことも、読みづらい状況にあるというのはよく聞く話です。
福島ではALPS処理水の海洋放出が始まり、先が読めない状況にもあります。さまざまな問題があるなかでも、魚を獲っている漁師さんがいる。一消費者としてそのことを再確認しつつ、日々を過ごしていこうと思いました。

 

(ひこばえ 辻田浩司)