メニュー
閉じる

よつ葉ホームデリバリー

2024年6月号(158号)-3

 

 

 

PFOAの京阪神での広域汚染

 

小泉昭夫(京都大学名誉教授)

 

多くの国で環境汚染物質として厳しく規制

 

PFASとは有機フッ素化合物である。化学的に安定であり撥水性に優れ界面活性剤の作用を持つため、半導体や電気自動車の燃料電池の製造に用いられるなど多様な用途がある。PFASは総称であり、現在一万種以上が存在するといわれ、PFASの一つであるPFOAは、米国では1940年代から製造され、2000年頃から米国各地での汚染の実態が明らかにされた。
 多くの国で環境汚染物質として厳しく規制される一方、わが国では2016年の米国の基準をコピーした暫定基準PFOS+PFOA <50ng/L>のまま現在に至っている。産業廃棄物や活性炭由来の汚染が岡山県吉備中央町、京都府の綾部市、兵庫県の明石川で見つかっており、深刻な水道水汚染を生じているため対策が強化されるべき状況である。わが国でPFOAの環境汚染が認識された発端は、大阪北摂の神崎川流域である。この汚染は大阪湾にも達しており、逆流しては淀川を遡上し、阪神間の飲料水の水源である初島付近にまで達していた。われわれの調査の結果、この汚染は大阪ダイキン工業が、工場排水を処理せず安威川流域下水処理場に放流したためと判明した。
 安威川下水処理場では、2003年の調査で67000 (ng/L:ppt)の汚染が見出だされた。大阪湾では、562pptを示し、柴島付近の淀川流域で271pptのPFOAの汚染を記録していた。このような高度の汚染に対応するため、大阪市や阪神間の自治体の取水場では大量の活性炭でPFOAを除去する必要に迫られ、ダイキン工業も活性炭による工場排水のろ過により、PFOAの除去をしていた。

 

 

大気による曝露経路の存在

 

 

ダイキン工業のこのような汚染がマスコミにより明らかにされたのは2007年である。この頃、共産党の大阪府の府議会議員であった堀田文一氏は、日本の議会で初めてPFOAによる環境汚染問題を健康問題との文脈で追及した。その結果、ダイキンはますますろ過の強化に努めた。丁度その頃、摂津市住民をはじめ近隣の大阪市住民、京都市住民、兵庫県の西宮市の住民の血液検査を行った。京都市の住民に関しては、1980年代中期からの血液が保存してありその血液を分析することにした。その結果興味深いことが判明した。京都市ではPFOAの血中濃度は、順次増加しているが、宮城や秋田の住民では極めて低いことが判明した。またもう一つのプロトタイプのPFAS化合物であるPFOSではこのような経年変化がないことも判明した。この事実から京都市住民の曝露経路として、水道水以外の大気由来の曝露経路があることが想定された。
 われわれは大気からの曝露経路の存在を確かめるため、京都府下および大阪市内での大気粉塵中のPFOA濃度の測定を行った。さらにわれわれに匿名で送られてきたダイキンのPFOA製造量、回収量、大気放出量のデータを用い広域大気モデリングを行い、大気由来のPFOAおよび水道水由来のPFOAのシミュレーションを行った(右上図)。その結果によれば、2004年の摂津市民の血中濃度および製造を縮小し始めた2007年の血中濃度を非常によく再現した。さらに西宮をはじめ京都の血中の経年変化もよく再現していた。以上から、大気による曝露経路の存在は確定的なものとなった。
 その後、高濃度の大気中PFOAの曝露を受ける大阪市内のダイキンから半径4.5km以内の住民からは2004年から2008年に大きく血中濃度が減少していた。この原因として製造を縮小したため大気中の放出が減ったためと考えた。ダイキン工業は2015年にPFOAの製造から完全に撤退した。しかし1960年以来の汚染の痕跡は、ダイキン工業の周辺の井戸水がいまだに異常な高値(18,000ppt)を示し、大阪湾を含む生態系を汚染している。さらに現在、近畿地方のみならず多くの府県で産業廃棄物である使用済み活性炭による汚染が見出されてている。PFOAはIARC(国際がん研究機関)により発がん物質と区分され、胎児の発育抑制、免疫毒性、脂質代謝異常などの健康影響を引き起こす。しかし、わが国では国をはじめ行政は不作為を決め込んでいる。PFAS汚染を明らかにし、対策を政府・行政に求めてゆく運動を継続する必要がある。

 

 

 

注…2004年に住民では30.7ng/mlの数値が検出

 Niisoe et.al.,2011 Env Sci Tech

 

 

「PFAS血液検査」に参加して  ひこばえ 福田久美

 

私も「PFAS血液検査」に参加した一人ですが、どのくらい検出されるのかは気になります。高濃度汚染地域には住んでいないものの、PFASを使った製品は想像よりもずっと身近にあると実感するからです。フッ素樹脂の一番の利点は熱に強く、水・油をはじくことなので、食品包装・防水スプレー・化粧品・調理器具など、幅広く使われています。例えば、油なしでもくっつかず、便利なフライパン。最近は「PFOA・PFOSフリー」のキャッチコピーを目にするようになりましたが、PFOA・PFOSは、長年使われてきたPFASの一種で、発がん性により使用禁止になりました。しかし、日本が法律で禁止したのは、EUより遅れて2021年。大手メーカーは「自主規制により、それより前に製造中止した」と言いますが、回収どころか、大きな報道もされていないため、知らずに「まだ使用中」なんて普通にあると思います。そして何より、発がん性が確認されたPFOA・PFOSは確かに使われていませんが、製造時に他のPFASが使用されていることには変わりなく、メーカーもコーティングの組成を明らかにしていないため、毒性が判明したら禁止するといういたちごっこの可能性もあります。過去の便利さの代償であるPFOA・PFOSは、これから先も環境や自分たちの健康に不安を与え続けます。フライパン一つとっても、選択できます。私も化粧品、汚れ防止生地など、身近なものから点検してみようと思います。