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よつ葉ホームデリバリー

2024年7月号(159号)-2

月浦公園から水俣を眺める

 

意思表示することの大切さ

 

■水俣せっけん工場熊本県水俣市)■

水俣病患者、チッソ労働者、市民54名の出資から1986年に設立。過去の経験から、川、海、環境にやさしく、そして自然の営みと循環している“暮らし”に目を向けた廃食油を活用した石けんづくりをしている。

 

 

  1986年、水俣病公式確認30年の年に、水俣病患者の環境保護を事業化したいという思いが共感を呼び、水俣せっけん工場が誕生しました。目指したのは「働くものが中心となって出資する自主管理・自主運営の職場」「水俣病の被害者や労働者、市民らが共に働く共同作業所」「自分たちにとって本当に必要なものを生み出すことや、身近な技術を取り戻す小さな化学工場」でした。40年近い間、販売を通じて大量生産、消費、廃棄の暮らし方を見直すことや実践することも提案してきました。また水俣病が起きたころ、日本は物質的な豊かさを追い求め、遠く南の地域で人的被害や環境破壊が起きていても「命より経済」ということに目が行き、無関心でした。水俣病がいまだに解決しないということを見るとき、今ある社会問題に正面から向き合うこと、意思表示することの大切さも訴えています。環境問題や原発、反戦平和のことが喫緊の課題です。


今年5月1日の環境省主催の水俣病被害者との懇談会で、3分の持ち時間が過ぎたらマイクを切り、取り上げるということが起きました。マスコミやSNSでも何百万人が見るという関心の高さ。世間には水俣病事件の問題は何かと分かりやすく伝わったと思います。渦中の水俣病患者連合の松崎重光さんは朴とつな方で、未認定で亡くなったお連れ合いの無念さを訴えようと3分で収まるように練習を重ね臨まれましたが、マイクを切られました。水俣病の歴史のなかでは国から見捨てられた人がたくさんいますが、松崎さんは国を信じて交渉を重ねていくと言われていました。だから今回のことは想定外、あぜんとした表情に現れています。被害者の想いを打ち砕いた環境省、人を人とも思わない考えや態度と批判されても仕方がありません。

(永野隆文)

 

 

 

トマトコンテストにて(右が安原さん)

 

お会いできる機会を大切に

 

■北摂協同農場大阪府能勢町)■

大阪府豊能郡能勢町を中心とした地域の生産者がつくった野菜を集荷し、よつば農産へ出荷している。よつ葉と生産者とのパイプ役としての役割だけでなく、生産者の相談に乗ったり、地域活性化のためのイベント開催など活動も多岐にわたる。

 

 北摂協同農場では6月7日に2024年度の野菜の作付け会議が行われました。80名ほどの参加があり、昨年度の経過報告・作付け実績が明らかにされ、今年の秋冬作で「何をどれくらいつくろうか?」と能勢の生産者とよつば農産とが話し合い、今期の地場野菜の作柄を考え、依頼します。そうは言っても天候に大きく左右される農作業、良い天気・気温で種蒔きや定植ができるとは限りません。約束した数量を出そうと思うと少し多めに種を蒔いたりします。しかし、出荷納品数は受注数より少なかったり多かったりしてしまいます。生産者第一のよつ葉の会員さんは、入荷量が少ないときは状況を理解し欠品を受け入れてくれています。野菜セットを注文したり、「野菜大好き会員」に登録して注文しなくても豊作野菜を受けていただき、生産者は安心して生産に励めると喜んでいます。
 

そんな皆さんと出会いの場を持ちたいと能勢農場ではいちご狩り・夏祭り、北摂協同農場ではトマトコンテストへの審査員参加や芋掘りなどを企画しています。芋掘りではリピーターが多く、年々成長する会員のお子さんとの会話を楽しみにしています。先日、京都での『よつ葉・春の全国生産者交流会』で野菜を販売していたときに「あっ! 芋掘りのおばちゃんや‼」と声をかけていただき、「こんなところで出会っても私が芋堀りのおばちゃんって分かるんや!」と嬉しくなりました。生産者と会員とのつながりをよつ葉を通して感じています。多くの皆さんと畑や農場でお会いできる機会を、これからも大切につくっていきたいと思っています。    

(安原貴美代)

 

 

 

 

わたしのオススメ

 

『食べものから学ぶ現代社会
-私たちを動かす資本主義のカラクリ』

阪倉康美(大阪産直会員/「おおさかコモンズ」)

 

 スーパー、飲食店、デパ地下、自販機、ネットショップ…とお金を出して「食べものを買うこと」は日常的ですが、食べものを取りまく世界の経済となると知らないこともたくさんあります。現代の市場と経済論の落差を、中学生が分かる言葉で書かれているのが平賀緑さん著『食べものから学ぶ現代社会』です。本では例えば輸入品が安く国産品が高いという価格差のカラクリが書かれており、この一冊で世界経済を牽引する多国籍企業の利潤の仕組みを理解できます。
 
先日、本書をテーマに私が関わっている「おおさかコモンズ」でオンラインの読書会をしました。参加者は生産の現場とつながることをしていて、参加者の話がそれぞれに興味深かったです。話は弾み、なかでも印象的だったのが、価値について。食べられるという価値は初めからあるものではなく、人がつくっていくということです。 確かに子どもの頃には食べたことのなかった、アボカド、モロヘイヤなども流通するようになりました。さらにはコオロギまでが食べものとされるとは。
 
一方で、菊芋、マコモのように直売の形で知る野菜も増えました。また、駆除されるシカを食料資源にできるかどうかは、まず捕獲の現場や地域で新しい食材としての価値を見出し、都道府県との協働による下処理の仕組みづくりと民間の販路を確保することが必要だということです。こうした生産の現場からの商品化や日本にある自然の資源を使うことの大切さを感じました。
 
本にあるとおり、これからのキーワードとしては地域に根ざした食と農と経済「小農による食料ネットワーク」が重要です。家庭菜園、個人商店、学校給食、小農、生産者直売、家での料理など、経済規模としては一見小さいように見えても、人間の営みに直結している活動が長く生活基盤や地域の経済力を下支えするということです。つまりはこうしたネットワークが途絶えないように、地域づくりを行う政治が求められます。食べものの商品化(価格・流通の操作)が私たちを取り巻いている状況で、現代社会のカラクリを食べものから読みとくこの本を、私はお勧めします。あなたにとっての食べものとは何か。ぜひ手に取って考えてみてください。

 

 

                     

著者/平賀 緑
発行/岩波ジュニア新書 本体価格 940円(税込 1034円)