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2025年11月号(175号)-3

 祝園(ほうその)弾薬庫14棟の増設と

最悪のシナリオ

 

布施 祐仁

(フリージャーナリスト)

 

 

 

防衛省は自衛隊の継戦能力(戦時に作戦を継続する能力)を確保するため、「2027年度までに弾薬の生産能力の向上や製造量に見合う火薬庫の確保を進め、必要十分な弾薬を早急に保有する」(2022年に閣議決定された「国家防衛戦略」)としています。
 
火薬庫については、まず2027年度までに約70棟、2032年度までにさらに約60棟を整備する計画です。そのうち14棟を京都府南部にある陸上自衛隊祝園分屯地に造ろうとしています(2027年度までに8棟)。弾薬については、長射程ミサイル(スタンド・オフ・ミサイル)を優先的に確保するとしています。
 
日本は従来、他国の領域内を攻撃する能力は持たない方針でした。そのような能力を持てば周辺国に脅威を与え、「平和国家」の理念に反するという考えからでした。しかし、2022年、岸田内閣がこの方針を転換しました。そして、それまでは「日本に侵攻してくる敵の部隊を遠方から迎撃するために使用する」という説明で開発してきた長射程ミサイルを、敵国領域内への攻撃にも使用すると明言したのです。
 
来年、陸上自衛隊は射程約1000キロと推定される国産長射程ミサイルの運用を開始します。海上自衛隊も、米国から購入した射程1600キロを超える巡航ミサイル「トマホーク」の運用を開始します。祝園分屯地に整備される新たな火薬庫にも、これらの長射程ミサイルが保管される可能性があります(注)。

 

●「米軍の一部隊」となって戦争に参加

 

 

 日本政府が長射程ミサイルの開発・取得に力を入れている背景には、同盟国・米国の軍事戦略があります。
 
米国は中国と戦争になった場合、日本に長射程ミサイルを持ち込んで中国軍を攻撃する作戦を計画しています。それを米国だけでやるのではなく、日本にも一緒に(あるいは、なるべく日本に)やってほしいと考えています。日本政府はこの米国の期待に応えようとしているのです。日本政府は自衛隊の長射程ミサイルの運用は「米国との緊密な連携の下で行う」と明言しています。
 
防衛省が作成した内部文書(情報公開請求で入手)には、「目標情報の共有」「目標の分担」「(攻撃の)成果についての評価の共有」などで連携すると記されています。自衛隊の情報収集能力は日本の領域とその周辺に限られていますので、中国本土の軍事施設などを攻撃する場合は、米軍の情報に頼るほかありません。つまり、自衛隊は米軍の情報に基づき、米軍から割り振られた目標に向かってミサイルを撃つことになります。自衛隊は事実上、「米軍の一部隊」となって米国の戦争に参加するのです。

 

●軍事費の軍産複合体の既得権

 

 

米国と中国の戦争が勃発し、米軍と自衛隊が日本からミサイルで中国軍を攻撃すれば、日本の国土も中国軍のミサイル攻撃を受けることになります。 中国軍は米軍と自衛隊になるべく長射程ミサイルを撃たせないようにするでしょう。しかし、ミサイルの発射機は移動するので、中国から発射したミサイルを命中させるのはほぼ不可能です。では、どこを狙うか。可能性が高いのは、ミサイルを保管している火薬庫です。実際、ロシアとウクライナの戦争でも、火薬庫がミサイル攻撃の主要な目標になっています。
 
祝園分屯地に長射程ミサイルが保管されるようになれば、戦争になった場合、最も攻撃を受ける可能性が高い軍事施設のひとつになるでしょう。とはいえ、米国も中国と本気で戦争をする気はないと思います。政治的には対立していても、経済的には深い相互依存関係にあるからです。中国との戦争は、米国経済にとって“自殺行為”になることは理解しているはずです。
 
それでもなぜ、中国を「敵視」して、日本も巻き込んで戦争の準備をするのでしょうか。表向きは、「中国の台湾侵攻を抑止するため」という理由を掲げています。しかし、本当の理由は別にあるというのが私の見方です。人類の歴史上、米国ほど強大な軍事力を手にした国家はありません。世界には200近い国がありますが、米国だけで世界の軍事費の約4割を占めています(2024年)。2位の中国は約1割ですから、圧倒的に引き離しています。
 
やっかいなのは、この巨額の軍事費が軍と軍需産業が一体となった軍産複合体の既得権になっていることです。巨額の軍事費を維持するためには、その理由が必要です。巨額の軍事費を正当化できるだけの「強大な脅威」がなければならないのです。現実にそれだけの脅威がなくても、あたかも脅威があるかのように納税者に信じ込ませる必要があります。近年、米国政府が強調する「中国の台湾侵攻の脅威」とは、まさにこのようなものだと思います。
 
問題は巨額の軍事費を正当化するためにある国の脅威を誇張し、その国を仮想敵として軍備を増強すると軍事的緊張が激化し、本当に戦争が起きてしまうリスクが高まってしまうことです。そして、米国と中国の戦争が起きてしまったら、日本列島は米国の「ミサイル発射台」として利用され、その結果、中国の激しい攻撃を受けることになります。この最悪のシナリオを回避するためには、中国を仮想敵とする米国の戦争準備に追従する現在の日本政府の姿勢を、私たち主権者の力で一刻も早く変える必要があります。
 

 

 (注)…祝園分屯地は精華町にある陸上自衛隊の施設だが、新たに整備される火薬庫は海上自衛隊も使用すると防衛省は説明している。京都府北部の舞鶴市には海上自衛隊の基地があり、トマホークを運用するイージス艦も配備されている。よって、祝園分屯地には、陸上自衛隊の国産長射程ミサイルだけでなく、海上自衛隊のトマホークも保管される可能性がある。

 

 

10/19「私たちは二度と戦争をしたくない!

平和でこそ文化は香り立つ!

祝園全国集会」にて

 

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