2025年12月号(176号)-1
平和への願い・決意をつなぐ
わたしたちにできることを考える
今年は戦後80年という節目の年でした。80年を経て戦争体験者が少なくなっていくなか、わたしたちはどのように戦争の悲惨さを語り継ぎ、平和な世界を構築していったらよいのでしょうか? 世界を見渡せば、ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナへの非人道的な攻撃が連日行われています。国内を見ても沖縄での辺野古基地の建設だけでなく、全国的に自衛隊基地などの軍備強化が急速に進んでいます。その背景として歴史修正主義などが横行し、戦争の記憶が希薄になってきていることが考えられます。今号は戦後80年の締めくくりとして、よつ葉の職員・生産者・会員さんに平和に向けての願い、決意を語ってもらいました。たくさんの想いをつなげて、平和な世界を希求しつづけていきましょう!
生産者から
目の前の人に生活があること
フェアトレードショップ「架け箸」 高橋智恵
「21世紀にもなって、ルーツを理由に軍事占領下で差別を受ける。パレスチナの人たちの尊厳が守られていない。それが〝パレスチナ問題〟だ――」そう感じた現地への初訪問は2018年のこと。
住民を監視する軍の存在や高い壁にショックを受け、フェアトレードを通した協働でパレスチナへのまなざしを変えていきたいと、「架け箸」を開業しました。2023年のガザ侵攻以降「パレスチナは危険で、自分には関係ない場所」ではなく、「生活のある場所」なのだと示す手仕事の存在に重みが増したように思います。
足元では日本の戦争犯罪や加害の事実が反省されないまま、軍拡と排外主義が強まっています。ヘイトクライムは小規模な差別から出発する。日本も繰り返してきたことで、イスラエルのパレスチナ人に対する姿勢も正にそれです。
20代の私たちが年を重ねたときにどんな世界になっているのか正直不安ですが、平和であるためには、目の前の人に生活があることを可視化し、近寄りがたさや先入観を取り払う試みが種蒔きされていることが必要だと思います。パレスチナの人たちの生活、日本に暮らす海外ルーツの人たちの生活、周辺国の人たちの生活――。フェアトレードにもその役割があると信じています。

「架け箸」の木工品の製作中
会員から
価値観や仕組みごと変えなければ
げいじゅつと、ごはん
スペース AKEBI./大阪産直会員
木澤夏実
熊が街に現れました。それもたくさん。冬眠に備えて腹ごしらえしようにも、どんぐりや果実が森に少ない…というか、森や山それ自体が人の手によってどんどん削り取られているのです。だから、熊がこっちまで来るのも、道で鉢合わせた人を攻撃してしまうのも仕方ありません。元をたどれば、熊は人にすみかを奪われた被害者なのだから。大好きだった茂みにソーラーパネルなんかつけられたりしてたまったもんじゃないでしょう。
けれど、実は人も社会に蔓延する「儲けつづけなければ」という圧力に苦しみながら経済を回しています。いじめも差別も、戦争だって同じ。「なぜそんなことするの?」と突き詰めれば、弱いもの・ゆっくりなものから切り捨てられる社会構造に行き当たるのです。みんな、自分が一番下にならないように必死。かく言うわたしにもそういう面があります。
ここに生きている限り、全員が何かの被害者で、加害者でもあります。2025年は、そういったことが腹の底にズドンと落ちた一年でした。熊やいじめっ子や兵士を懲らしめるだけでは解決しない。社会の価値観や仕組みごと変えなければ。
そんななか、恩師から教えてもらった〝未来世代法〟。国や公共機関が新たな決まりを作る際、「それが未来世代にとっても有意義であるかどうか」をチェックして報告することを義務付ける法律です。日本にも導入しようと奮闘する恩師たちの姿に、希望の光を見ました。まずは私も、深く知ることから始めようと思います。

「AKEBI.」のさつまいもとミンチのコロッケ
職員から
一人ひとりが考えるとき
能勢食肉センター 谷 正充
以前、よつ葉の仲間と沖縄を訪問したとき、沖縄戦を経験されたおばあから話を聞く機会がありました。「あまりの喉の渇きに水たまりの水を飲んだ。翌朝、明るくなってその水たまりを見ると血の混じった泥水だった」など、その話は想像もできないほど衝撃的なものでした。
おばあは「当時の話をすると、今でも2~3日体調を崩す」とも仰っていました。戦争はその時だけではなく、長い年月がたっても影響を残すものだと感じたことをハッキリと覚えています。
世界ではロシアによるウクライナへの侵攻やイスラエルによるガザでの集団的虐殺が今も行なわれています。戦争で被害に遭う多くは一般の人たちであり、一瞬で暮らしや生命が奪われるのです。本当に許されるべきことではないと思います。
日本では今年の参議院選挙で「核武装が最も安上がりだ」と主張する候補者も現れました。最近の動向としては軍事費の増額や外国人政策の見直しなどが進められようとしています。
ナチスのヘルマン・ゲーリングは「戦争を望まない国民を戦争に参加させることは簡単だ。国民に向かって、われわれは攻撃されかかっているとあおり、平和主義者に対しては愛国心が欠けていると非難すればよい」と述べています。今、まさに同じような状況になりつつあると感じます。
戦後80年がたち、戦争を経験してきた人たちの多くが亡くなり直接話を聞く機会が少なくなった今だからこそ戦争、人の生命、平和であることについて、一人ひとりが考えるときではないでしょうか。
