2025年12月号(176号)-3
2025年、農や食にまつわる
気になる動きを振り返る
山口 協
(地域・アソシエーション研究所)

2025年のお米の実り(別院協同農場)
2025年も残り少なくなってきました。今年も1年を振り返り、農や食にまつわる気になる動きについて考えたいと思います。
●コメ価格下がらず
昨年に引き続き、今年もコメ価格の高騰が続きました。新米が出回る時期が過ぎたにもかかわらず、収束の気配は見えません。それどころか、農水省によれば、11月3~9日に全国のスーパー約1000店で販売されたコメ5キロの平均価格は税込み4316円、2022年の調査開始以降の最高値を更新したとのことです(2025年11月14日『朝日新聞』電子版)。9月下旬の段階で、今年産の主食用米の収穫量は前年比で68.5万トン、約1割の増加と算定されていました。市場に出回るコメが増えると予想され、価格が下がっていくのが普通です。ところが、そうはなりませんでした。
多くの農産物と同じく、コメの価格も基本的には市場での需給関係に従って決まります。ただし、コメは収穫したものを一年かけて捌いていくため、JA(農協)グループは収穫段階で農家に「概算金(がいさんきん)」を仮払いし、その後の販売状況に応じて、最終的な販売額から追加払いが行われます。概算金はJAグループ以外の集荷業者が農家と交渉する際の目安にもなっています。
コメ価格の高騰はすでに昨年から生じていました。品薄状態のコメを安定して確保しようとすれば、今年の概算金は必然的に高くなります。他の集荷業者もJAに負けない価格設定で囲い込みを図ります。すでに価格が上がった状態で契約しているため、そう簡単に下げるわけにもいかないのです。とはいえ、コメは一年で捌き切るものなので、高価格を維持して在庫を積み上げても仕方がありません。今年の収穫量は十分あることから、年明け以降、価格は下がっていくと見られています。
●なにが「米騒動」を招いたのか?
そもそも「米騒動」とまで言われた事態の原因は何だったのでしょうか。農林水産省は今年8月5日付で「今般の米の価格高騰の要因や対応の検証」を公表しています。それによると、「人口減少等による需要のマイナス・トレンドの継続を前提として、翌年産の需要量の見通しと生産量の見通しを作成」しており、「また、生産量の見通しにおいても、精米歩留まりが低下していることを考慮していなかった」としています。要するに、長年にわたってコメの需要は減少傾向にあり増加するとは思っておらず、高温障害などによる精米段階での供給量の減少にも考えが及ばなかったということです。
その上で、「この結果、生産量は需要量に対し不足し、民間在庫を取り崩し、需要量に見合う供給量を確保せざるを得なかった」と振り返っています。ところが、民間在庫の多くはすでに売り先が決まっているため不足分を補うことができず、逆に品薄への懸念から業者間でのコメの取り合いが生じた結果、価格の高止まりを招くことになりました。需給見通しが甘かったと言わざるを得ませんが、にもかかわらず生産量の不足を認めませんでした。そのため、「①流通実態の把握に消極的であり、マーケットへの情報発信や対話も不十分」「②政府備蓄米についても、不作時に備蓄米を放出するというルールの下、放出時期が遅延」に至ったと総括しています。実際、農水省は後々まで、米価高騰の原因として「流通の目詰まり」や「卸売業者の価格吊り上げ」を主張していました。早い段階で備蓄米を投入していれば、市場の過熱も静まったのではないか、そんな指摘もあります。
●「米騒動」原因とは?
今後不慮の出来事でもない限り、事態は沈静化していくと思われます。とはいえ、もちろん問題が解決したわけではありません。考えるべき点は多々ありますが、ここでは二つ取り上げたいと思います。
一つはコメの価格です。冒頭に「コメ価格の高騰」と書きました。実際、「米騒動」以前の2023年と比べると、2024年で1.5倍、2025年では2倍を超えました。しかし、実は1990年代のコメ価格は現在の水準とさほど変わりがなく、およそ30年にわたってコメの価格は下がり続けてきたのです。日本経済がデフレ基調にあったことは確かですが、燃料や肥料など輸入割合の多い生産コストはむしろ上昇してきました。今年5月、全国農業協同組合中央会(JA全中)の会長は、現在のコメ価格について「決して高いとは思っていない」と述べましたが、重く受け止めるべきです。どちらかがしわ寄せを受けることなく、生産者にも消費者にも適正な価格を考えていく必要があります。
これに絡んで、もう一つは農家の減少です。昨年度の「食料・農業・農村白書」によれば、ふだん仕事として主に自営農業に従事している基幹的農業従事者の数は2000年の240万人から2024年の111万4千人へ、約20年間で半減しています。しかも、そのうち65歳以上は79万9千人と全体の71.7%を占め、その半数以上が75歳以上です。ほとんどは今後5年~10年で勇退を余儀なくされるでしょうが、後継世代は少なく、農家全体では急激な減少が想定されます。農業生産への負の影響は相当なものとなるでしょう。なぜ農家は減っていくのか。最大の理由は再生産可能な所得を見込めないことにあると推察されます。「米騒動」があらわにした問題は、むしろこれから最大の難所を迎えるのです。

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