メニュー
閉じる

よつ葉ホームデリバリー

2025年2月号(166号)-2

 

 

いのちを育むたべものづくり

 

■大徳醤油(兵庫県養父市)

1910年創業。蔵に棲みつく酵母や微生物が、四季の移り変わりに合わせてゆっくりと熟成を進めていく「天然醸造」。そして原料も国産のものにこだわって作られる醤油、ぽん酢などの調味料からは、理念である「いのちを育むたべものづくり」が感じられる。


 

杉板を張り巡らした醸造蔵にて

 

 

 昨年の年明け、大徳醤油はドキュメンタリー番組の取材を受け、多くの反響がありました。現在、醤油業界は厳しい状況に直面しています。昭和初期には1万軒あった醤油蔵が、現在では1000軒を切り、毎年30~40軒が廃業しています。このままでは30年以内に大手メーカー以外の醤油蔵が消えてしまう可能性があります。流通の発達により醤油が安価な商品として扱われるようになり、多くの伝統的な醤油蔵は自社での一貫生産を続けることが難しくなっています。昔ながらの醤油は大豆と小麦から麹をつくり、自然の温度変化のなかでじっくりと発酵・熟成させるものです。
 
大徳醤油は「いのちを育むたべものづくり」の理念のもと、伝統的な製法を守り続けています。「手作り醤油キット」はその一環であり、先人が受け継いできた日本の調味料を未来の子どもたちに残すための取り組みです。自宅で1年かけて醤油を育てる体験を通じて、醤油の醸造工程を知り、多くの人にその価値を伝える活動を30年間続けています。
 
また、大豆と小麦を原料に一貫生産している醤油蔵では、大量の醤油粕が出て処分に苦労しています。厳選した国産原料を長期熟成させるもろみから出る醤油粕は微生物の代謝を受け、栄養豊富でフルーティーな香りを醸し出しています。
この醤油粕の使い道を地元の若手料理人や学生たちとともに、検討しているところです。通常は廃棄される醤油粕の価値を見直し食卓に提案することで、全国の醤油蔵の継続の一助になればと期待をしています。
今春、地元養父市で発酵をテーマにした直営店を出店する予定です。そのお店で醤油粕を使った新商品を発表できることが今から楽しみでなりません。

 

(浄慶拓志)

 

 

 

ともに知恵を出し合い

 

ティーダ有機(沖縄県南風原町)■

 

 「安心・安全」を合言葉に自然との共生、環境保全型農業に取り組んでいる団体です。できるだけ農薬は使用せず、皆さんに美味しいものをお届けしたいという思いの元、農産物を栽培し、出荷しています。


 

後ろが高橋さん

インゲンを手に持って

 

 

   南風原町は東経127度43分、北緯26度11分の沖縄本島南部のほぼ中央に位置し、県都那覇市に隣接しています。周りを6つの市町に囲まれ、県内では唯一の海に面していない町です。面積は10・76平方キロメートル。県内41市町村で4番目に小さな町です。ティーダ有機の圃場は南風原町にあり、約1000坪の簡易型ビニールハウスでピーマン、1000坪の路地栽培でインゲンや角オクラをつくっております。私が本格的に農業を開始したのは6年前で、それ以前は主に野菜の販売に力をいれていました。
 
農作業に携わるようになって感じたのは、毎年、気候が異なり暑さだけでなく大雨、強風、土壌の変化など野菜を育てるのがこんなにも難しいのかということでした。またそれだけではなく、農家を取り巻く環境の変化が速く、資材の高騰、最低賃金の引き上げ、働き方改革など、農業経営にも頭を悩ます問題が発生しております。
 
今後も、農家を取り巻く環境がいろいろ変化していくとは思いますが、協力してくれている農家さんとともに知恵を出し合い、作業の効率化や技術の向上を図っておいしい野菜を育てていこうと考えております。おいしくて、安全安心な野菜を提供できるよう、日々精進して参りますので応援よろしくお願いします。

 

(高橋正弥)

 

 

   

 

 

 

 

わたしのおススメ

 

『農はいのちをつなぐ』

 

宇根 豊 著

笹川浩子(よつば農産)

 

 

 「久しぶりにほのぼのとした本を読んだなー」という感じ。著者の考え方、生き方に魅力を感じ、当たり前のことに気づかされた一冊である。梅雨あたりにカエルが鳴き、梅雨があけるとセミが鳴く。当然のように思っていたことが単純にはそうではなかった。田植えの前にまとまった雨が降り、田んぼにたっぷり水が溜まっても、決してカエルは鳴かない。代搔き(しろかき)が終わった後にカエルが一斉に鳴きだすのだ。代搔きは、田植えの準備仕事であるだけではなく、カエルの産卵とオタマジャクシの成長を助けることにもなる。宇根さんは百姓をしていると仕事や暮らしで出会う相手は圧倒的に生きものたちで、その生きものたちと毎日のように会話すると言う。生きものとはカエルやゲンゴロウ、赤とんぼだけでなく、稲や野菜、土や石や水、田んぼや小川や森、雲や風や空、お日様も生きもの。人間も自然の一員であり、その一部であるという自然観を取り戻していくことが大切だと語る。すべてのものにいのちが宿っていて、生きものなのだということを改めて認識させられた。
 
環境稲作を提唱してきた著者は、現代の農が抱える問題を提議する。農薬を極力使用しない方法もあるというのに、未だに虫が発生するかどうかを百姓自身が確認せずに予防のために農薬を散布するという技術が、平気で全国各地で行われている。一番心配なのは不必要な農薬散布で生きもののいのちを奪うことへの百姓の感性が麻痺していくこと。百姓仕事のなかのいのちの引継ぎの感覚が根底から破壊され続けると言う。
 
農業とは食料を生産する産業ではない。田んぼはいのちといのちをつなぐ場所であり、農はいのちを支える営みである。田畑の生きものとまた会えるようにするには、百姓の力だけでは無理。食べる人がいないといけない。つまり農とは生きものと百姓だけでは成り立たない世界。食べることも農の欠かせない一部なのだ。食べものがここにあることに感謝して、日々暮らしていきたい。