2025年5月号(169号)-1
令和の米騒動を契機とした
食の危機を ともに乗り越えるために
昨年の食をめぐる大きな出来事としては米の供給不足、いわゆる令和の米騒動が一番に挙げられると思います。今年も政府による抜本的な解決策も提示されないまま、早くも米の市場供給が危ぶまれています。そんななか、3月30日には30台のトラクターが東京の青山に集結し、4500人の農業者や市民が集まって、デモ行進を行いました。その動きは拡散され、全国15カ所で同時に集会が行われました。令和百姓一揆実行委員会の菅野代表は今回の集会を日本の食の危機を訴え、消費者、政府と一緒に考えるきっかけにしたいと話しています。
田畑は地域の生態系も守る
お米を「つくる」ことにこそ予算を!
関西よつ葉連絡会事務局長 松原竜生
昨年8月に突如として発生した米不足。農水省は当初、買い溜めによる一時的な品薄であり、新米が出回る頃には解消されるという楽観的な見解を示し介入をしませんでした。しかし、年が明けても状況は改善せず、3月に入ってからようやく21万tの備蓄米を放出しましたが、4月に入っても米は不足し価格も前年比の約2倍と高止まりしています。
これは根本的に不足している量と比べて放出量が足りていないこと。さらに、売り渡し先を農協などの大規模な集荷業者に限定しているため、事前にそういう業者と契約を済ませている外食産業や加工業者が優先され、一般小売店まで供給されていないことが原因とされています。農水省は未だに「投機目的の買い占めが主要な原因」だと説明していますが、貯蔵が効くとはいえ米があくまでも生鮮品であることを考えると、「そもそも米が不足していた」という見解の方が説得力があります。
農業を軽んじてきた政策
天候や自然災害のために起きたかつての米不足や飢饉と比べ、今回の米騒動には複雑な要因が絡まり合っていることは確かでしょう。しかし根本的で最も大きな原因が、農業を軽んじてきた政策にあることは疑う余地がありません(本紙2月号「いりあい知」参照)。
意外かもしれませんが、米の自給率が100%を超えたのは戦後、1960年前後です。しかし、そうなった頃には食の欧米化が進み一人当たりの消費量が低減し始めたと同時に、どれだけお金が儲かるか? という尺度ですべてを計る考え方とそれに沿った政策や経済システムが世界を席巻していきました。
そのような背景のなかで、減反政策を中心とした生産調整が行われてきたのです。農業は輸出産業の足を引っ張るお荷物のように扱われ、命の再生産に欠かせない「食」を育む農家の誇りは傷つけられ続けました。米農家においては50年前は約400万戸あったのが2024年の統計で53万戸に激減しています。生産量もピーク時の約半分です。
国が「コスト」を抑えるために在庫をできるだけ持たないようにしてきたことで、何かの要因によって少しでも需給バランスが崩れると、今回のような事態に陥ってしまうことが白日の下にさらされたと言えます。
価格の高騰については30年前の水準に戻っただけとも言え、持続的な生産が不可能なまでの低価格に耐えていた農家の皆さんにとって、これからも米づくりを続けていくモチベーションになるのなら必ずしも悪いことではありません。そもそも、ペットボトルのお茶が1本130円ほどすることを考えれば、お茶碗1杯分70円の米が高いのか? というふうにも思います。
「“ともに生きる”アクション」の活動
その一方で、主食である米の価格が高騰していることによって受ける影響は、決してみんなが一律でも平等でもありません。
関西よつ葉連絡会では経済的に困窮している人たちを支える「〝ともに生きる〟アクション」という活動を続けています。その中心となっているのが、協力団体を通して生産者が丹精込めてつくったお米を届けることです。この活動を始める契機となったコロナ禍もそうでしたが、何かあった場合に受ける影響が大きいのは、平常時から困窮している人たち。当然、このタイミングで依頼される回数も量も増えてきたのに、それに対して十分に対応できない状況が続いており、悔しい思いでいっぱいです。今まさに必要とされているのに…。
国はこれまでの農業政策の失敗を認め、「つくらせない」ことにお金を使うのではなく、「つくる」ことを支えるべきです。成長期の子どもを含む多くの人が満足に食べられない現状や国際貢献を視野に入れれば、つくり過ぎることなど何の問題もありません。必要な場合は価格の調整を行ってでも生産者を守ると同時に、誰ひとり飢えない社会をつくるのは国の責務です。無駄に危機をあおり、何兆円もの防衛費増額を叫ぶ政治家や識者に、食べることに困っている人はいないのです。
一方ですぐに状況が大きく変わらないという現実を考えれば、私たちも変わっていく必要があります。これまでのように「安心して食べられるよつ葉のお米を買って支えてください」と言うだけではなく、「もっと米づくりの現場と密接に関わりませんか?」「一緒につくってみませんか?」というようなアプローチも必要だと感じています。いずれにせよ、さらに不安定さを増す「食」の現状を少しでも良い方向に変えていくために、生産者の皆さん、会員の皆さんとともに考え行動していきたいと思います。
米検査は毎年、よつば農産のスタッフが行なう