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よつ葉ホームデリバリー

2025年5月号(169号)-2

 

 

少しでも喜んでもらえれば

 

■いのうえ果樹園(愛媛県大洲市)

瀬戸内の太陽と潮風をいっぱい浴びる広大な農地で、温州みかん、デコポン、甘平(かんぺい)、伊予柑と、化学肥料や農薬を1/2以下に抑えて柑橘を育てている。

 

後列右が井上さん

 

 エコファーマー認定の柑橘栽培をしています。昨年の柑橘栽培は苦難の連続でした。私たちの園地は裏年で元々、花が少なく、今年の収量は少なくなるだろうという予想はしておりました。春先の大量のカメムシの発生、夏場の高温で日焼けした果実が大量に発生、10月の高温と多くの雨によりさらに追い打ちをかけられ、最後に2月の大雪です。
 
エコファーマー認定の栽培を行っているため、農薬の使用は限られます。園地に通っていると春先のカメムシが大量発生しているのに嫌でも気がつきます。花の時期なので農薬を使うことができないということもあり、手をつけずにそのままにしておりました。結果としては花が落ちて、実が結実せず1本の樹に10数個しか実がなっていないという現実を突きつけられました。
 
農家にとって農薬は使わなくていいのであれば一切使いたくないです。手間がかかりますし、農薬の費用も大きな出費となります。しかしながら、日本の気候で農薬を使用せずに栽培した柑橘がどのようなものになるかを嫌になるほど体験しました。外観も悪く(一部には良いものも)必ずしも味が良いというわけではありません。収穫量も大幅に減少しています。それと樹に対して大きな負担をかけているような気もします。
 
すべての責任を負わなければならない一次産業の従事者として、いつもどれが正解なのだろうかと考えます。生まれ育ったこの土地で自分が育てたものを手にとってもらい、少しでも喜んでもらえれば、きつい農作業をしていても明日も頑張っていこうと思えます。(井上 誠)

 

 

 

食文化を次世代につなぐ

 

■フードハブ・プロジェクト(徳島県神山町)■

 

「地産地食」を軸に、地域で育てて、地域で一緒に食べることで関係性を豊かにし、神山の農業と食文化を次の世代につないでいくことを目的として活動している。

 

前列左が松本さん

 

 

 はじめまして、フードハブ・プロジェクトといいます。神山町という人口4500人ほどの中山間地域で、農業と食文化を次世代につなぐことを目的に10年前に設立されました。高齢化が進み、耕作放棄地になる前にバトンを受け継ぐため、新規就農者を育成し、彼らがつくった野菜を地域の方に食べてもらうために食堂とパン屋を営んでいます。鮮度の良い旬の有機野菜を、素材を引き立てるシンプルな調理法でつくるランチは、食べるとエネルギーが湧いてきます。
 
また地域の加工品も受け継いでいくために「カミヤマメイト」というお菓子も製造しています。こちらは神山町の農家さんが昔食べていた、米ぬかが入ったおやつをヒントに開発されました。滋味深く、粗く挽いた米粉のプチプチした食感で腹持ちが良く食べ応えがあります。地域の方の手づくりの桜の塩漬けや、梅干しを漬けるときに使う紫蘇を生地に練り込んだフレーバーがあり、勉強やお仕事、登山をする方など、空腹を満たすお菓子として大変人気があります。
 
「よもぎほたパウンド」は徳島の「ほたようかん」というむっちりした食感の郷土菓子を基に、自社で有機栽培したよもぎをふんだんに生地に練り込んだ一番人気のケーキです。よもぎの栽培から全て自社で行っているため、成育状況や収穫時期はどうかと、生産者とパティシエが会話しながらつくっています。
 
ここは料理人やパン職人、パティシエ、農家などのつくり手が集まる面白い場所です。種から育てる野菜、それを使ったパンやお菓子など、真面目につくる商品を皆さんにも食べて支えていただけるととても励みになります。これからも新しい商品の開発を進めていきますので、手にしていただけると嬉しいです。(松本絵美)

 

 

   

 

 

惜別

 

 


 

  3月にご永眠なさった佐藤あい子さん(新庄最上有機農業者協会)の娘さんより、ご葬儀の後にお便りをいただきました。
 
あい子さんは東京で自然食品店を営んでいた約30年前に遺伝子組み換え大豆に、反対する運動を始めました。還暦を迎えてから山形・新庄に移り住み、地元の農家と一緒になって自らも無農薬で大豆を栽培し、その大豆でつくったしょう油、みそ、納豆を、よつ葉にも届けてくれました。大豆の味がしっかり感じられる「豆むすめ」のファンの会員さんも大勢いらっしゃることと思います。
 
12月にお会いしたときには、少し体調が優れないようにも見えましたが、「まだまだ、やりたいことあるんだよね」と意欲的でした。新庄の自然を愛し、新庄の人々に愛された正に辞世の句のような、食の安全を追い求め続けたご生涯でした。ご冥福をお祈りいたします。
(ひこばえ 後川泰章)

 

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母 佐藤あい子は
去る3月3日 89歳にて永眠しました

有機農業と食にこだわりを持ち
62才で山形新庄に移住して
地元の方達に支えられながら
新庄最上有機農業者協会を仲間と立ち上げる
など思う様 走り続けた生涯でした

晩年 病を得た後
娘たちは一人暮らしを心配しましたが
母は 新庄の土と空気と水に触れて
生活をすること
新庄での自分の役割があることを
何より大切にしておりました

娘の住む大阪に来て ひと月
病院で眠っていた母がふと目をあけて 微笑んで
それが最期でした
皆様にお礼のご挨拶を
お伝えしたかったのかもしれません

生前の母へのご厚意に深く御礼申し上げます
皆様のご健康とご多幸を お祈り申し上げます

          2025年 3月    佐藤里子・大野克子

老いゆけば 山形の地の 去りがたく
捨ておきし長芋(いも) 掘りくれしひとあり

                             あい子