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よつ葉ホームデリバリー

2025年6月号(170号)-3

食と農を守る「のろし」として

- 令和の百姓一揆

 

齋藤敏之(農民運動全国連合会)

 

 

 

2024年12月19日の「日本農業新聞」1面に、島根県吉賀町農政会議でトラクター22台を連ねて町内をパレードした写真と動画配信用QRコード付きの記事が載った。読んで動画も見た。動画には授業中の小学校の教室から手を振る生徒たちや保育園前の道路で小旗を振る園児たちに、トラクターを運転する農民たちが嬉しそうに手を振る場面も映っている。
 
この行動に興味を持ったところに、口蹄疫問題以来、TPP協定反対や種子法廃止・種苗法改悪問題でご一緒した元農林大臣の山田正彦さんから「記事見たか? 東京でトラクターデモを考えているが、その準備のために23日にZOOMで有志による実行委員会の準備会を開くので参加してくれ」と呼びかけられた。
 
いままでの付き合いもあり、ZOOMで参加した。山田さんの簡単なあいさつの後、事前に送られた吉賀町の行動で声明を発表した農政会議会長の齋藤一栄(いつえ)さんが「私たちの行動をきっかけに、全国へのうねりとなってすべての農業者の団結につながる一歩になればと考えパレードを実施しました」と報告。
 
その呼びかけに応えて、東京で集会とトラクターパレードの実施を目指す実行委員会の結成を確認し、事務所を山田正彦法律事務所とする。実行委員をネットで募集する。中心になる代表、事務局長、実務的に必要な役割分担など実行委員会の体制は、今日の参加者を中心に次回までにその案を作成することと、次回の会議日程を確認した。
 
1月10日、代表に山形の百姓の菅野芳秀さん、事務局長にパルシステム・リレーションの高橋宏通さん、必要な専門部とその部員を確認すると同時に「なんのための行動か?」を明確にした趣意書と組織運営の申し合わせ事項を議論。併せて「実行委員会への参加の呼びかけ」やHPの立ち上げ、パレードの実施日は3月30日とし諸準備を開始。同時に取り組みを広くアピールし、国会議員へ「農村現場の状況を訴える院内集会」を2月18日に開催することを確認した。
 
1月22日には会場やデモコースなどが関係各機関との折衝を踏まえ確定。トラクターと人のデモコースは分ける。トラクターは30台までに制限されたが、準備の具体化を開始。宣伝資材やトラクターの各地からの回送費用は、クラウドファンディングで賄うことを確認し、翌日にはHPで呼びかけを始めた。
 
次の実行委員会で、「トラクターの台数が制限されるのであれば、各地で取り組めないか」との意見が出され、実行委員会で準備するのぼり旗など統一したグッズで、各地でパレードやスタンディングなどアピール行動を呼びかけることを確認した。

 

 

●「令和の米騒動」ー農民の声を発信するとき

 

 
2月18日に開催した院内集会で、実行委員長の菅野芳秀さんは「いま農村では“農じまい”が始まっている。この現状を多くの国民は知らない。マスコミは“令和の米騒動”をあおるが、農村の実態は報道しない。平均年齢70歳の農村には後継者はいない。食が不足して困るのは消費者だ。今ならまだ間に合う。すべての農民に“欧米並みの所得補償を”を共通要求として、ともに農業を守る運動を広げよう」と訴えた。各地から参加した6名の農民は、農水省が公表した2022年、23年の稲作農家の「自給10円」や減反政策による崩壊過程や、追い打ちをかける「酷暑」がもたらす農村の現状を次々に語った。
 
集会には自民党以外のすべての会派から38名の国会議員が参加。JA関係者を含め、会場いっぱいの参加者から3月30日の“令和の百姓一揆”成功に向けた積極的な発言が続き、その日の夕方のテレビニュースや、翌日からの新聞の多くで好意的な報道が行われた。

 

 

●国防に寄与する地域農業の役割

 

 
3月30日、東京青山公園には午前10時を過ぎると、30台のトラクターと全国各地からさまざまな人々が集まり始めた。その思いとして、①「私たち令和の百姓一揆実行委員会は、農業と食を守ることを目的とし、多様な農業、人を尊重し、他の団体、農法、人への批判は行いません」②「反社会的な行為や、暴力行為、破壊行為などは行いません」との申し合わせ事項の元に、「すべての市民が安心して国産の食料を手にするために」、「すべての農民に所得補償を」、「未来の子どもたちにも国産の食料を食べてもらえるように」、「日本の食と農を守ろう」をスローガンに、4500人が全国から集まった。
 
東京以外でも米騒動発祥の地・富山県をはじめ全国14カ所でトラクターパレードやスタンディングが取り組まれ、その様子はマスコミも大きく取り上げ、米政策の根本問題に踏みこんだ番組もつくられるなど、大きな反響を巻き起こしている。
 
今回の行動は地球規模で進む異常気象による食料生産の不安定化が進んでいるにも関わらず、“令和の米騒動”になんら有効な手を打たない政府の「この際、零細な兼業農家はリタイアしてもらい、農地の集約化・大型化で“産業として自立できる農業”を目指すべきだ」、「自給率向上など意味がない」、「そんなところに予算を使うなら防衛費にまわすべきだ」などという財政制度等審議会の“令和7年度予算の編成等に関する建議”などへの怒りと不安が、出発点になっているように思う。
 
島根県吉賀町の農政会議の声明は「たとえ武器弾薬を溜めこんだとしても食料がなければ、国民を守ることはできません」と断言。「農業、すなわち食料を守れない国に未来はありません」と結んでいる。2月18日の院内集会では」能登半島地震の復興途上のJA能登組合長の藤田繁信さんが、発言の最後に中山間地で農業を続けることは「国防に寄与している」と地域農業の役割を強調したように、日本の食料・農業・農村のこれからの方向性を示す大きな“のろし”になったと思う。絶やさず、さらに大きな運動に育ていかなければと思う。

 

横断幕を手に行進する

農民連会長の長谷川さん(左端)