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2025年8月号(172号)-3

福島イノベーション・コースト構想-搾取の再構築

 

 

吉田千亜

(イノベーション・コースト構想を監視する会)

 

 

 

世界では軍事技術の優位性をめぐる競争が繰り広げられている。核開発の競争だけではない。人工知能(AI)、無人機(ドローン)、極超音速兵器、量子技術(注)、高出力レーザーなど、「戦争」そのものの姿が変容しつつある。
 
 この技術競争と日本は無関係ではない。日本で長らく守られてきた防衛費の「GDP比1%枠」が取り払われたのが2023年度予算。「2027年度2%」の目標に向けて毎年、およそ1兆円のペースで防衛費を積み増している。そして、この軍事技術の競争が原発事故の被害を受けた「復興」の名のもと、福島県浜通りに持ち込まれている。

 

●産業基盤の再構築から軍事へ

 

 

福島イノベーション・コースト構想は2014年1月、赤羽一嘉原子力災害対策本部長/経産副大臣(当時)が米国のハンフォードを訪問したことに始まる。内堀福島県副知事、浜通りの市町村長、経産省、環境省、日本原子力研究開発機構、大学教授などに加え、元東電復興本社社長の石崎芳行氏まで21名が参加。その後、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想研究会が非公開で会合を6回開催し、同年6月に報告書を出した。報告書には「イノベーションによる産業基盤の再構築」がうたわれ、新しい産業基盤として「国際産学連携拠点の整備」が掲げられた。
 
 同じ頃、日本における【戦争・軍備】の制度も変えられてきた。安倍政権はロボット日米共同研究合意書を交わし(2013年)、ロボット革命実現会議、ロボット研究・実証拠点整備等に関する検討会(2014年)などを進めた。集団的自衛権行使容認の閣議決定(2014年)、防衛装備移転三原則(2014年)、安保法制(2015年)、ロボット革命宣言(2014年)や新戦略(2015年)など、次々と戦争や軍事に関する法制度などを整備。その後、ロボット・ドローンの実証拠点として、「福島ロボットテストフィールド」の無人航空機エリアがオープン(2018年)。地元の人たちはオープン当初も、口々に「知らなかった」「びっくりした」と語っていた。その後、全面オープン(2020年)し、防衛装備庁も実証実験などに使用している。
 
 一方、【学術】の世界の変化も、この浜通りには深く関連している。「総合科学施術イノベーション会議(CSTI)」が作られ(2013年)、CSTIは「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」を推進(2014年)。これは米国国防総省研究機関(DARPA)をモデルとしたものだった。その後、従来の大学への圧力が強まっていった。国立大学法人法(2015年)を作り、「大学改革」の名のもと、軍事研究の是非をめぐる議論も高まっていく。防衛省安全保障技術研究推進制度(防衛装備庁の委託で基礎研究ができる/2015年)に対して日本学術会議が声明を出し(2017年)、その後、日本学術会議任命拒否事件(2020年)が起きる。

 

 

●【戦争・軍備】と大学連携の法整備

 

 

【福島浜通り】と【戦争・軍備】【学術】がつながったのは、2022年だ。この年、経済安全保障推進法、国際卓越研究大学法、福島復興特措法の大改正が同時期に行われた。この3つの法律の制定と改正の後にできたのが「新産業創出等基本計画」だ。この基本計画が今の福島の浜通りを形作っている。同年の年末に出された「安保関連三文書」に「企業・学術界との実践的な連携」が明記されたことも大きい。
 
 そして、「福島国際研究教育機構(F-REI /エフレイ)」が2024年にオープン。この教育機構は浜通りの「司令塔」として機能すると基本計画に書かれた。岸田総理大臣(当時)が出席し、報道された。所管省庁は多岐にわたるものの、「防衛省」とは決して明記せず、「経済産業省」で誤魔化されている。これは経産省が経済安全保障推進法を所管しているからであり、実際に基本計画には「経済安全保障」という言葉が明記された。つまり、法的に浜通りは「軍事研究ができる拠点」となった。ロボット、農林水産業、エネルギー、放射線科学・創薬医療、原子力災害に関するデータや知見の集積・発信の5分野が掲げられている。
 
 いま、このF-REI(エフレイ)は「国家プロジェクト」とうたわれ、さまざまな団体、企業、大学と連携協定を進めている。例えば、地元銀行である東邦銀行と包括協定を結び、銀行は担当行員を配置。県、地元自治体(浪江町)とも連携協定を結び、東北大学、大阪大学、東日本国際大学、米国パシフィック・ノースウェスト国立研究所など、国内および世界の大学や研究機関とも連携。また「福島ロボットテストフィールド」、国立研究開発法人量子科学技術研究科初機構、日本原子力研究開発機構、国立環境研究所などとも連携。企業に関しては産官学連携体制構築のための「ネットワークセミナー」が都内、福島県を中心に開催され、マッチングや事業支援などが行われている。
 
 浜通りと軍事の関係で例を挙げると、浪江町請戸小学校の駐車場にコンクリート格納庫が設置された「The Guardian」がある。ドローンからのライブ映像と宇宙から河川をモニターし続ける衛星データを連携させ、津波と豪雨から命を守るとうたわれている。これ自体は「災害用」であるが、無人機ドローンは「偵察」にも使われる立派な「軍事」技術だ。
 
 表向き「災害」「介護」「福祉」を装って技術開発すれば、いつでも軍事転用できる。なかには社会の福祉に資する研究を望み、戦争や軍事に反対する研究者もいるだろう。いま戦争に巻き込まれるリスクにさらされているのは、むしろそういった真面目な研究者なのかもしれない。
 
 結局、浜通りの「復興」と言いながら、搾取の構造が再構築されているだけだ。被災地にどう向き合うべきか、戦争や軍事をどう考えるべきか、浜通りが破壊されつつあるいま、考えていく必要がある。
(注)…原子を構成する微細な電子・中性子・陽子などの量子特有の性質を活用してサバイバー攻撃による情報漏洩回避などに用いる。

*4面に関連記事があります。

 

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