メニュー
閉じる

よつ葉ホームデリバリー

2026年1月号(177号)-3

 

 地域自立のための「公共」の立ち上げ

ー置賜(おきたま)自給圏構想

 

江口 忠博

(置賜自給圏推進機構)

 

 

 

●レインボープラン

 

山形県長井市民が1997年から取り組んできた、生ごみ堆肥化とその堆肥利用による環境保全型農業の推進および、循環型地域社会実現に向けたレインボープランは、土の大切さを生産者と消費者が共有し、微生物を介した食と暮らしの循環システムです。
 
家庭から出された生ごみを堆肥に変えて、それを地域の田畑にすき込み豊かな土壌を蘇らせ、そこで収穫された作物は大消費地には送らずに地域内で食する。そして残渣をまた堆肥に変えてゆく。微生物たちを真ん中に据えて生産と消費が目指す本質である暮らしと生命を廻してゆくというレインボープラン。持続可能な地域経営に必要な理念と考えた市民が行政とともに立ち上げた未来づくりミッションです。

 

●「土は生命の源」

 

 

これはレインボープランが掲げる理念のひとつ。作物が実るために必要な栄養素は、土のなかに暮らす微生物たちがつくりだしているということを指しています。私たちが口にする食べものの良し悪しには土の肥沃さが影響しているといいます。また、山から海へと流れ下る川の水質が沿岸漁業を支えており、これもやはり山の土の肥沃さが影響しているからともいえます。
 
これらの微生物も生命の基をつくる大切な資源のひとつですが、化学肥料や農薬の使用によって微生物の生育環境を悪化させたり、山の表土を剥いで微生物たちの生存域を減らすことは、地域の資源が奪われ生態系そのものを壊すことにつながりかねません。

 

●置賜自給圏構想の誕生

 

 

地域資源を活用した循環型社会モデルの先進的事例とされた「レインボープラン」も、私たちのライフスタイルの変化や少子高齢化、人口流出など、故郷の存続が危ぶまれる社会状況のなかで変化しました。当初は中心市街地5000世帯の家庭から1000tもあった生ごみの回収量は、現在では400tほどとなりました。これは世代交代によるレインボープランシステムへの参加意識の低下も要因のひとつと思われますが、中食などの普及により台所での調理作業が減ったことも要因と考えられます。暮らし方が変容したとはいえ、レインボープランが唱える「循環型社会」の概念を今後も私たちが暮らす地域に定着させていきたいという思いから、自治体の枠を越えた広域での「持続可能な社会」の実現に取り組もうと、域内の市民有志が話し合い2014年に「一般社団法人置賜自給圏推進機構」を設立したのでした。

 

 

●地域の自主自立

 

 

「置賜自給圏構想」が描くエリアは、長井市を含めた周辺自治体3市5町(右図)の範囲で、藩政時代に上杉家が治めた米沢藩に相当し「置賜地域」と呼ばれています。山形県の母なる川「最上川」の最上流部に位置し、現在では約23000haの耕地面積を有する約19万人が暮らす地域です。この地域を持続可能な、将来世代も安心して暮らしを営める地域にしていきたいとの思いで、レインボープラン誕生のときと同様に市民たちが描いた構想です。3市5町の広域といっても、車で約1時間も走れば地域の端から端まで移動できるという、市民にとっては日常の生活圏でもあります。
 
この地域で活かすべき資源や資本としては、農業や自然環境の他にも道路・橋・鉄道・水道・通信などの社会インフラ。そして、教育や医療、福祉。金融や文化などの制度資本もあります。これらの地域資源や社会資本を地域内で主体的に維持してゆくことを目指したものです。地域の自立には資源ポテンシャルの現状認知と資源の域内で廻す術を主体的に企てることが必要と考えますし、自身が地域の主体者であることの自覚も求められます。

 

置賜自給圏エリアの3市5町

 

 

●市民による公共の立ち上げ

 

 

財やサービスの供給を可能な限り市場メカニズムに任せるという新自由主義の思想によって、これまでの歴史のなかで地域の人たちが共有し、管理してきた田舎らしい生業(なりわい)を資本主義市場に手放すこととなり、結果、田舎は人材も土地も資源も低コストとして資本家に収奪され、田舎は自立する力を失ってきました。しかも縮小した行政機構は、本来公共として担うべき住民サービスの施行もままならない状況に陥ってしまいました。これからの地域経営の考え方として、従前の行政依存の体質から住民や地元企業が主体者として率先して未来への投資などを行うことが必要です。縮小する自治体機構にだけ依存せず、市民が地域を繕い未来を構想し実行する「生活者自身による新しい公共意識」を醸成する必要があると思うのです。「置賜自給圏構想」は、まさに地域自立のための市民による「公共」の立ち上げを唱えています。

 

●自立の要件

 

 

置賜地域において、食料・エネルギー・教育・医療・福祉の分野において自立を可能にする資源のなかで、食料とエネルギーは十分なポテンシャルがあります。前述したように23000haの耕地面積は置賜地域住民19万人分の食料生産が可能です。また、官営民営の発電所から発電される電力量は、置賜地域の全一般家庭約7万世帯の需要量を十分に賄える量があります。農耕に欠かせない水も飲料水も豊富です。生命をつなぐために必要不可欠な資源は外部調達をせずとも賄える地域ということになります。微生物の世界から始まり、農、森林、水、エネルギー等などの資源を外部に簡単には手放さず、先ずは地域の充足を第一に考えることが「自立」には大切です。
 
豊かな農をまずは地元の消費者が支える形をレインボープランで体現しましたが、市民が地域を支えるという思いを広域で共有し、持続する田舎づくりを実践していきたいものです。

 

愛宕山(米沢市)より

置賜盆地遠望