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よつ葉ホームデリバリー

2026年2月号(178号)-2

 

 

「復興のその先」を見据えて

 

 

■八木澤商店(岩手県陸前高田市)

東日本大震災の津波被害から奇跡的に守られたもろみを培養し、それを軸に仕込んだ丸大豆醤油などの発酵食品を扱う。発酵パーク「CAMOCY(カモシー)」を運営するなど、ものづくりを通した地域発信も積極的に取り組んでいる。


 

 

河野さん

 

 
八木澤商店は岩手・陸前高田で醤油や味噌、発酵食品を造りつづけてきました。「食を通じて人と人、文化と文化を結ぶ」ことを大切に、ものづくりを続けてきました。東日本大震災を経験したことで、私たちは単に商品を製造・販売するだけでなく、地域の食文化や生産の背景にある価値を、次の世代や世界へどうつないでいくかを強く意識するようになりました。その延長線上にある挑戦のひとつが、イタリアでの事業展開です。
 
イタリアは土地の個性や作り手の哲学を尊重し、食を暮らしの中心に据える国です。発酵や熟成への理解も深く、日本の醤油や味噌と精神的な親和性が高いと感じてきました。そこで私たちは単なる輸出にとどまらず、現地に拠点を構え、継続的な対話と共創を行うため、子会社MUSUBUを設立しました。事業を進めるうえで大切にしているのは、これまで関わってきた地域の生産者との連携です。顔の見える関係のなかで培われてきた信頼や技術こそが、海外展開の土台になっています。東北の風土と人の営みが育んだ発酵文化を、イタリアの料理人や生活者と共有し、新たな価値として育てていくことを目指しています。
 
2026年は震災から15年という節目の年であり、私たちは「復興のその先」を見据えた歩みが問われていると感じています。今後は、食を媒介に国や文化を越えたつながりを生み出し、地域に根差しながら世界と向き合う姿勢を大切に、持続可能な未来へと歩みを進めていきます。一つひとつの取り組みを丁寧に積み重ねることが、結果として地域や生産者の未来を支えると信じています。その思いを胸に、私たちはこれからも挑戦を続けていきます。

(河野通洋)


 

 

 

動物たちの「旬」にズレ

 

■洛北ジビエ イマイ(京都府京都市)

2020年、ジビエを扱う食肉処理施設を開設。京都洛北の地で捕獲された鹿、猪の解体、精肉を行っている。地域の環境問題について大学生に講義したり、地元のマルシェにも出店したり、地域活動にも積極的に取り組んでいる。


 

仕留めたイノシシと今井さん

 

 

 私は京都市で洛北ジビエイマイというジビエの食肉処理施設を営んでいます。最近の熊事情について私の見解を記します。特に私が狩猟をしている京都市のテリトリーでは今年はエサがとても多く、鹿、イノシシの出来がとてもよく、同様に熊もエサに恵まれています。山にエサが豊富なため人を襲うことはなく、たまに柿を食べに出てくるぐらいです。一般の目撃情報は恐らく7割は誤報でしょう。地域の安全のため確認に山に入りますが、痕跡がないことがほとんどです。
 
しかし緩やかに生息数は増えている実感はあります。今年は私が罠をかけている所で痕跡を発見したり、鉢合わせかけることもありました。今年はエサが豊富でしたが、不作の年の対応が大事になると思っています。そして地域によってエサ、生息数の差がかなりあるので、その地域に特化した防除方法を行政とともに取り組んでいかなければいけません。
 
ニュースで痛ましい熊の被害をよく聞きますが、すべての都道府県が当てはまるわけではないということも念頭に置かなければと思います。関西と東北では元々の生息数も違うし山のエサも違う、特に昨今の気候変動で動物たちの「旬」もズレが出ており、今までの動物の習性に当てはまらないことも多くなってきています。若いわれわれ世代はより柔軟に対応していける環境をつくらなければなりません。

(今井亮太)


 

 

 

 

わたしのおススメ

 

 

『未来へのバトン

―福島県中間貯蔵施設の』

不条理を読み解く』

 

門馬好春 著

 

松元信一(奈良産直)

 

*カタログでの企画はありません

 

 

 

 

 2023年10月、福島第一原発事故から12年、汚染水海洋放出から約2か月というときに、よつ葉職員有志で福島を訪問しました。そこで出会ったのが、本書『未来へのバトン』の著者・門馬好春さんです。門馬さんはとても穏やかな優しい方で、私たちを原発事故ゆかりの地に案内していただきました。そのなかで原発施設周辺はいまも立ち入ることのできない場所が多く、復興にはほど遠い現実を私たちは肌で感じてきました。
 
門馬さんは福島原発近くに実家があった地権者の一人です。自宅の土地は除染で出た汚染土を保管する「中間貯蔵施設」の一部となりました。国と東京電力は一方的な条件を提示し、地権者の生活や尊厳を顧みない交渉を進めてきました。門馬さんは仲間とともに「30年地権者会」を立ち上げ、「ルールを守れ」「きちんと法律に基づく正当な補償を」と声を挙げつづけてきました。
 
本書では中間貯蔵施設が30年の期限付き事業でありながら、県外最終処分の見通しが曖昧なまま時間稼ぎが行われている実態、8000ベクレルもの汚染土を全国で再生利用しようとする危うさが告発されています。原発事故は終わった出来事ではなく、今も人々の暮らしと権利を奪いつづけています。
 
東京電力は被災された方々へ充分な補償や責任を果たさないまま、新潟県柏崎刈羽原発を再稼働させました。福島原発事故の総括も被災者の生活再建も道半ばのまま、再び原発を動かそうとする姿勢は、福島での事故を本当に教訓としているのかという強い疑問を抱かせます。
 
原発再稼働を社会全体で容認する方向に向かっていますが、本書はこうした現在進行形の問題を私たちに突きつけ、原発事故の「その後」を生きる責任が社会全体にあることを訴えています。「便利さとは何か」「豊かさとは何か」。原発事故は私たち一人ひとりに生き方そのものを問いかけています。福島の問題を他人事にせず、次の世代へ伝えるために、本書は力強い「バトン」を私たちに手渡しています。