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よつ葉ホームデリバリー

2026年2月号(178号)-3

 

 熊出没、その背景と対応

ーともに生きるために

 

村上 美和子

(日本熊森協会滋賀県支部/京滋産直職員)

 

 

 

 

昨年はこれまでに見ないクマの大量出没が起こり、東北・北海道を中心に人身事故が相次ぎました。年末に揮毫(きごう)された漢字も「熊」。クマの被害や出没に苦しまれた地域の皆さまに心からお見舞い申し上げます。
 
さて、クマ出没の背景には山の実りが凶作で餌がないから里へ降りてくると言われています。いままでドングリの豊凶の周期は何度もありましたが、2023年、2025年のように集落や住宅地、建物のなかにまで連日餌を求めてクマが走りまわるという異常事態はありませんでした。昨年9月に白山(注1)で調査した昆虫学者によると、白山からもクマの痕跡が消えたとのこと。
 
クリやミズキは豊作だが、クマ棚(注2)は皆無、まるで神隠しにあったかのようにクマの痕跡がない。昆虫も一部分多数発生しているものもあるが、こちらもクマの痕跡は確認できず。豊かな森が残る白山には、推定約1000頭のクマが生息しているとされてきました。その後の追跡調査の結果、クマたちは高標高地へ移動していて、降りてきたときにクリをたっぷり食べてクマ棚もいっぱいあったそうです。
 
温暖化による影響で昆虫の減少と植物の植生が変化し、春から夏にかけてクマの餌がなくなり、秋の実りだけでは判断できない状況になってきたとのこと。数年前から丹波山地では春先からクマはみな集落の裏山にいて、たとえ秋にブナ科が大豊作になったとしても山へ戻れない、奥山に棲めないようになったそうです。

 

 

●太陽光パネル・風力発電風車の影響

 

 

私は十数年来、滋賀県高島市朽木の麻生、木地山集落の奥山で活動しています。スギの人工林215haの熊森トラスト地を広葉樹の混じる森に誘導するため、スギの間伐、広葉樹苗の植樹などをしています。その日常のなかで、目に映るのは集落の高齢化・過疎化。住む人がいなくなった空家も藪に囲まれ、耕作放棄地にも野生動物が隠れやすくなっています。
 
琵琶湖の南の市街地でもクマの目撃情報が相次ぎ、誘因物となるゴミや畑の残渣、柿の実の放置が問題になっています。琵琶湖の周りではナラ枯れが一巡し、もう一度巡っているようです。この構造的環境を解決しない限り、いくらクマの数を減らしても人身事故は解決しないのではないかと思います。
 
さらに、野生動物と共存できない開発、メガソーラーです。やまのこ(注3)の事前学習で訪れた小学校の校長先生は「子どもたちが遊べるような山に太陽光発電パネルが敷き詰められてしまって…」と嘆いておられました。メガソーラーを作るためには大規模な切土・盛土をするため、山崩れがあとを絶ちません。もうひとつ、野生動物の棲み家を脅かすのが風力発電による尾根筋の破壊、日本の水源の森、脊梁部に拡がる森林、すなわちクマの中核的な生息地に壊滅的なダメージを与える風力発電も恐ろしいほどに進んでいます。
 
政府の再エネ号令で北海道、東北、全国至る所に風車が建てられ地元の反対運動も経済優先の波に押されているのが現状です。日本熊森協会は全国の住民の方々と手を取り合い、森林破壊に「待った!」と声をあげています。次の世代へこの日本の森林を手渡すためにまずは知ること、そして声をあげつづけることです。

 

 

●棲み分けてクマと共存できる制度を

 

 

クマに対する目線は世の中、駆除一辺倒になっています。一昨年の閣議決定でクマを危険鳥獣と定義されました。緊急銃猟(注4)の導入が決まり、揚げ句のはては自衛隊まで投入。糠や蜂蜜の誘因物で箱罠を仕掛け、すべて捕殺しています。日本熊森協会は一昨年の閣議決定を受け、環境省に緊急署名14749筆を提出し、「捕殺強化ではなく、棲み分けてクマと共存できる制度を」と要望してきました。国政への働きかけや声明を出し、何とか流れを変えたいと一丸となって動きました。
 
マスコミのクマ報道は恐怖や感情的な対立をあおるものが多く、ネット上でも人間本位の対処の仕方を批判する意見にバッシングが集中しています。信頼できるメディアが少なくなり、自分自身で考え分析する力がこれまで以上に必要になっています。大切なことは誰かがどう言っているとかではなく、現場でどういうことが起きているのか、一次情報に触れ実際に見てどうしてこうなるのかを考えることです。あふれる情報に振り回されず、自分自身で考えることです。余談ですが、関西よつ葉連絡会には「よつ葉憲章」というものがあり、「人も自然の一部という価値観に重きを置き、自然との関わりを大切にする」(4面参照)という一文があります。人間社会のあり方を深く考えさせられるものだと日頃から振り返っています。
 
これから必要とされ実現可能性のある方向性とは、①森林保全・水源の森維持に協力してくれる山主さんへ安定的な助成をする(滋賀県ではトチノキ保全で実施)、②水源林の維持保全活動の担い手への適切な報酬の支払い、③猟師さんの収入になるように捕殺でなくても、犬をつれて追い払いをしたら補助を出す、④市町に「鳥獣行政を担当する専門官」を配置する。ポイントは担い手確保。中山間地に住んで生計が成り立つような仕組みづくりです。森林環境税が有効に使われていないと聞きました。森林環境税は自治体がお金を自由に使えるはずです。担い手を確保し、自治体と話し合い、使いやすく担い手の収入確保ができる仕組みをぜひつくっていきたいと思います。

 

 

注1・・・石川県と岐阜県にまたがる日本三名山のひとつ
注2・・・ツキノワグマが樹に登りドングリを食べる際に折った枝を積み重ねた、樹上にできる     塊のこと。
注3・・・滋賀県内の小学生4年生が、県内の森林体験学習施設や周辺の森林で行う「森林環境     学習」のこと。
注4・・・クマやイノシシが住宅地など、人の生活圏に侵入し、人への危害の恐れが非常に高い     緊急事態に市町村長の判断でハンターに捕獲を委託できる制度。