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2026年3月号(180号)-3

 

 原子力政策の反転と

浮かび上がる問題

 

大島堅一

(原子力市民委員会座長)

 

 

●「最大限活用」へと舵を切った

日本の原子力政策

 

 
2025年2月、政府は第7次エネルギー基本計画を閣議決定した。この計画の最大の特徴は、福島第一原発事故以来掲げられてきた「可能な限り原発依存度を低減する」という文言を削除し、代わりに原子力を再生可能エネルギーとともに「最大限活用する」という方針に反転したことである。
 
政府は原子力を2040年度の電源構成の約2割とする目標を掲げた。しかし、2023年度の原子力比率が8.5%に過ぎない現状でこの目標を達成するには、30基を超える原発のほぼ全てを再稼働させる必要がある。自然エネルギー財団の分析によれば、この目標は「究極の最大シナリオ」でしか実現できず、現実的な中位シナリオでの2040年度の原子力比率は7〜8%にとどまる。
 
2026年1月に相次いで発覚した2つの事案-中部電力浜岡原発のデータ不正問題と東京電力柏崎刈羽原発の再稼働トラブル-は、政府の「原発最大限活用」方針が科学的・経済的な合理性を欠いていることを明らかにしている。

 

 

●浜岡原発データ不正

                ー変わらない電力会社の体質

 

 

2026年1月5日、中部電力は衝撃的な発表を行った。浜岡原発の再稼働審査において、基準地震動(想定すべき地震の揺れの大きさ)を意図的に過小評価するデータ操作を行っていたというのである。約1000の地震動のなかから都合のいい「代表波」を選び、その代表波が平均値に見えるよう残りの19組の波動を適宜選んでいた。組織的な不正行為である。
 
原子力規制委員会の山中委員長は「安全規制に対する暴挙」と厳しく非難した。規制委員会は1月14日、浜岡原発の審査を当面停止し、立ち入り検査を決定した。審査はこれまでの内容が「全く白紙」に戻され、申請全体がやり直される見通しである。山中委員長は検査の結果次第では「不許可処分」もあり得るとし、浜岡原発が廃炉に追い込まれる可能性も示唆している。
 
この問題で最も深刻なのは、発覚の経緯である。自浄作用は働かず、2025年2月の原子力規制庁への公益通報によって初めて発覚した。山中委員長は「意図的なデータ不正を科学的に見抜くことは困難」と述べており、審査だけでは事業者の不正を防げないことも明らかになった。電力会社のガバナンス不全とともに、規制のあり方も問われている。福島事故から15年が経過してもなお、電力会社の体質は変わっていない。

 

 

●柏崎刈羽原発再稼働

ー問われる東京電力の適格性

 

 

2026年1月21日に東京電力は柏崎刈羽原発6号機を再稼働させた。東電が原発を再稼働させるのは、福島第一原発事故後初めてのことである。しかし、再稼働直後に制御棒に関するトラブルが発生し、原発は停止に至った。
 
そもそも、東京電力は原子力事業者としての適格性という点で重大な疑問がある。2002年のシュラウドひび割れ隠し、福島第一原発事故、また事故後もIDカード不正使用や侵入検知設備の故障放置といった不祥事を繰り返し、原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受けている。規制委員会は「安全セキュリティ活動に深刻な劣化が見られる」とした。
 
2024年の能登半島地震でも明らかである。原発の安全対策と避難計画には限界がある(写真右下参照)。道路が寸断されれば避難が不可能になり、家屋倒壊で「屋内退避」も機能しない。新潟は冬に北西の季節風が吹くため、事故が起きれば放射性物質が内陸側に流れ、福島事故以上の被害が出る可能性もある。

 

 

●原発の経済合理性という幻想

 

 

柏崎刈羽原発の再稼働で「1000億円の利益が出る」と東電は説明してきた。しかし、この金額は燃料費高騰時の市場価格を前提にした「差額」に過ぎない。東京電力は柏崎刈羽原発に1兆1690億円以上の追加安全対策費を投じており、投資回収率(IRR)は1%台か、マイナスである。投資家視点で見ると柏崎刈羽原発は「損切り」すべき案件である。再稼働による電気料金の低減効果も限定的であり、むしろ原発を廃炉にした方が電気料金は下がる。
 
さらに深刻なのは、原発が再生可能エネルギーの導入を阻害することである。原発は優先的に送電線を利用するため、再生可能エネルギーが出力抑制を受け、エネルギー転換に急ブレーキがかかる。福島第一原発の廃炉や賠償はまだ終わっておらず、その費用の大半は国民負担である。東電は福島の廃炉と事故処理に全力を注ぐべきである。

 

 

●高市政権の原子力推進体制づくり

 

 

浜岡原発のデータ不正と柏崎刈羽原発のトラブル続出は、日本の原発政策の根本的な問題を浮き彫りにしている。事業者のガバナンス不全、安全対策と避難計画の限界、経済合理性の欠如-これらの事実が示すのは、「原発最大限活用」という方針が現実性を欠いているということである。
 
しかし、高市首相はこうした問題に目を向けず、エネルギー・環境問題にも無関心である。それどころか、原子力推進体制づくりを強力に進めている。高市政権は国の財政資金、つまり国民のお金を使って原発新設に多額の資金を融資する制度を国会で通そうとしている。
 
福島第一原発では事故処理も廃炉も終わっていない。浜岡原発のデータ不正、柏崎刈羽原発のトラブルが示すように、原子力事業者の安全管理能力は極めて疑わしい。にもかかわらず、国民のお金を使って新たな原発を建設することは、福島事故の教訓を無視していると言わざるを得ない。科学的・経済的な合理性に基づいた冷静な議論と、強い反対世論が必要になっている。

 

 

震災により海面隆起した能登の港

最大4mもの隆起があった。

原発立地地区にそのような隆起が起こったと

考えると恐ろしい