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よつ葉ホームデリバリー

2026年4月号(181号)-3

 

 いろんな人がともに

生きていく社会を求めて

― 外国人在留資格の厳格化のなかで
 

中島和子

(子どもの未来を考えるお店 せいのお)

 

 

 

 今、日本には300万人以上の外国人が暮らしています。永住権を持っている人たち、留学生、労働を担ってくれている人たち、その子どもたち。私たちの暮らしを支えている食やその販売、介護など、あらゆる分野は外国の人の力なしでは成り立っていきません。しかし果たして、その人たちの人権は守られているのでしょうか。

 

 

●「私が私でなくなってしまう」

 

 
 スリジャナさんは現在、尼崎の住宅地にある「子どもの未来を考えるお店 せいのお」の営業部門コミュニティートレードショップ&カフェを営んでくれているネパール人の女性です。元々私たちのNGOがネパールでつくった、身寄りのない女の子がともに暮らし学校に行くことを目的にした「せいのお 子どもの家」の子どもの一人でした。「子どもの家」は彼女が初等教育を終える頃に解散しましたが、その後、行き場のない子4人を日本人メンバーのKさんが引き取り、高等教育まで受けさせてくれました。
 
彼女は看護学校を卒業後、看護師の資格を取得しましたが、看護師にはならず、日本語学校に通います。Kさんが認知症になり、ネパール語も話せなくなり、長時間一人にしておくこともできなくなったからです。他の子たちが大学卒業後、結婚や外国で働くために家を出ていった後も、一人でKさんの世話を続けます。そんな彼女の元に日本の医療法人の方から「グループの介護施設で働きながら学ばないか」という誘いがありました。留学ビザで日本に滞在し、日本語、介護を学びながらパートで働き、その後正式採用という話(注1)で、Kさんも介護施設に入られるということでした。「一緒に日本に行ける、日本の優れた介護技術も学べる」とビザの申請をしますが、なぜか、3回とも却下されます。その間もKさんの認知症は進み体調も悪くなっていきました。入院しても抜け出したりとトラブルが続き、大使館の方からの一刻も早い日本への帰国の勧めもあって、とりあえずスリジャナさんに観光ビザをとってもらい、一緒に帰国してもらうことになりました。2020年3月、彼女が22歳のときでした。
 
Kさんの介護施設入居が決まれば、帰国する予定で帰りの飛行機も予約していたのですが、コロナ禍で欠航になり、ビザの更新をして日本に残ることになります。3カ月ごとのビザ更新。費用は4000円でアルバイトはできません。日本人には生活支援金が出ますが、観光客には出ません。帰れなくなった観光客は留学ビザに切り替えてアルバイトをするそうです。年金生活者であるKさんが入居したあとは彼女は無一文になり、入学金など出せるわけがありません。結局2021年3月に特定技能ビザを取得して介護施設で働くようになります。
 
私は「なにも日本に来て、年寄りの世話をしなくてもいいのではないか? 私たちもそんなつもりでサポートをしたわけではない」「せっかく看護師の資格も持っているんだから、世界で活躍の機会はもっとあるのではないのか?」と思っていましたが、認知症の人であっても、決して否定せず、ありのままを認め寄り添う彼女の「人間力」に接し、その能力が発揮できるのではないかと思いました。しかし人手不足の介護の現場ではストレスが溜まり、彼女は「私が私でなくなってしまう」と離職する決意をします。特定技能ビザは1年ごとの更新で5年が限度です。5回目の更新の前の2025年3月のことです。
 
仕事を辞めると在留資格がなくなる、といっても彼女に帰る家はありません。「人を元気にする仕事がしたい。日本に住みつづけたい」ということで、「せいのお」の営業部門を株式会社化して起業し、9月には飲食店の営業許可を取得してコミュニティートレードショップ&カフェとしてオープンしました。
 
国産材でできた緑に囲まれた「せいのお 実験ハウス」は元々、未来の子どもに負荷をかけない暮らし方を実践するもので、福島やパレスチナの子どもたちのためのチャリティーイベントや子ども食堂などをやっていました。彼女は積極的に手伝い、地域に溶け込んで親しまれています。長年の付き合いになる第三世界ショップの「人と地球に優しい」生産者の顔の見える食品や手作り品に加え、小規模農家の野菜や米、店の囲炉裏端で手づくりした味噌などの商品も増え、カフェのお客さんも増えてきました。CWB(Community Work Beyond Border=アジア7カ国の若者たちが協働するコミュニティー)の仕事を担当させてもらったり新商品の開発をしたり、協力してくださる方々にイベントをしてもらったり、多くの方たちの協力を得て会社は黒字化しています。

 

●一体、だれを守る法なのか。

 

 

高市内閣は今年1月に、外国人政策の基本方針をまとめました。今後は在留審査がより厳しくなると言われています(注2)。そのなかには経営活動の実態を問うものもあり、「せいのお」の株式会社化はそのための対策です。また更新費用も値上がります。2年後には500万円だった資本金が3000万円になり、日本人または日本語能力試験のn2(中上級レベル)以上取得者の常勤が一人以上必要です。どうして、小さな地域密着型ビジネスでは続けていけないのか? 一体、だれを守るための法なのか納得がいかないまま、先の見えない不安が声を挙げられない外国の人の生活を脅かしています。
 
難民申請中の仮放免の人たちの状況はもっと深刻です。働きたい、自由に移動したい、家族と暮らしたい、病院にかかりたい。そんな当たり前の権利が守られず、子どもたちが将来の夢を描くことさえできなくしています。「外国人が増えると犯罪が増える」という根拠のないデマがさらに子どもたちを傷つけています。日本や日本人が好き、安心できる、生命の危険から逃れたい。さまざまな理由から日本で生活している外国籍の人たちの人権が守られ、それぞれの力を発揮してもらわないと日本の未来はありません。戦争までいかなくても温暖化による災害の巨大化、地震大国に老朽原発が乱立する日本で、非常事態に襲われたときにわれわれ日本人はどこに逃げたらいいのでしょうか? こんな自分勝手な日本人を受け入れてくれる国があるでしょうか?

 

(注1)…日本では日本の看護学校を出ていないと在留不可になり、看護学校に入るのには日本語能力試験のn1(最上位レベル)が必要
 
(注2)…出入国在留管理庁「外国人経営者の在留資格基準の明確化について」

(https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan43.html)