2026年4月号(181号)-4

本紙12月号「戦後80年」惜別―河合左千夫
味覚のような感性的判断を手放さず
本紙前編集長 下村俊彦
河合左千夫さんは、私が「ひこばえ通信」(本紙の前身)の編集を引き継いだときにはやさい村代表のかたわら、編集委員をしておられました。編集委員退任後も連載記事の執筆を続けてくださいました。お疲れさまでした。感謝しています。
連載記事のタイトルは「『うまい』話『まずい』話」でした。取り上げた「うまい」話は、芦浜産直の魚・具だくさんのみそ汁・かやくごはんなど、「まずい」話は原発・化学調味料・消費税(もし連載が続いていたらきっと今回の衆院選も)などです。通算100回を超える人気コーナーでしたが、タイトルに反して食べものと関係のない話題が多いという指摘を何度かいただきました。
担当編集者としては、「まずい」話での著者の見解に賛同できない読者からの遠回しな批判だろうと受け取っていましたが、ご意見をそのまま伝えると、「うまい」「まずい」という言葉は食べものに対してだけ使われるわけではない、と意に介さない様子でした。それどころか、「少しは気にしてほしい」などと言ったら、ますます食べものの話題からそれていきそうな気配を感じたので簡単な報告だけにしていました。思うにご自身の発案になるこのタイトルは、論じる対象ではなく、味覚のような感性的判断を手放さずにさまざまな対象を論じる、という自身の姿勢を表していたのでしょう。
河合さんの出身校でもある京都大学の藤原辰史さんが「身体感覚を伴う問いの大切さ」について述べておられますが、彼もそういう問いを大切にしたかったのではないでしょうか。そして伝えたかったのは、暮らしを「うまい」ものにするためには時流にこびず、感性を研ぎ澄ませて「まずい」ものは「まずい」と言いつづけよう、ということだったのだと思います。
ところで、そんな河合さんから私がもらった一番「うまい」ものは、手づくりの桜の花びらの塩漬けでした。小さなビニール袋に小分けしたものをくれたのです。カップに入れてお湯を注ぐと素敵な飲みものになりました。この可憐ではかなげな贈り物と、冬でも素足にサンダル、作業着風ベストに大きな声という彼の風貌とのあまりのギャップに、喜ぶ前に笑ってしまいました。失礼だったでしょうか。そういうわけで退職してお会いする機会がなくなってからは、桜の開花が彼を思い出すきっかけとなっていました。もう春です。今年の桜は彼の不在を思い起こさせるように咲くことでしょう。寂しいです。
生産者リレーエッセイ
50周年 その先へ
同じところを目指していると興奮した
しらたかノラの会 疋田美津子
設立50周年おめでとうございます。山形県南部の白鷹町で2006年に11人の有機農家で設立したしらたかノラの会が、関西よつ葉連絡会との取引を始めてから15年以上がたちました。冬は雪に覆われる東北の農民が、農業を続けていくために自前の生産物を餅や惣菜などに加工して販売する組織として、当初から販路の確保が大きな課題となっていました。一番年長だった加藤秀一(2014年死去)が、三里塚闘争時より交流のあった三里塚物産の立川さんから「関西にとても良いグループがあるよ」と紹介してもらったのが取引のはじまりです。
減反反対の立場を最後まで貫いた秀一さんは根っからの百姓で、作務衣姿で三里塚の集会にもよく参加していました。1980年代には、現在もノラのメンバーである妻の美恵さんらとともに出稼ぎに代わる仕事の場を築き、さまざまな加工品を生みだし、生協に販売していました。そのときの考え方が現在のノラの会のベースとなっています。立川さんから紹介を受けたあと、代表の大内文雄が夜行バスを乗りついで関西よつ葉連絡会を訪ね、能勢農場をはじめあちこちと案内していただき、興奮して山形に帰ってきました。流通組織でありながら農場や加工工場を持ち、それらが連携して安心できるおいしい食べものを世の中に提供する。規模は全く違っていても同じところを目指しているんだと皆で感じ入りました。その後、何人かのスタッフにこちらに来ていただいたり、こちらからも2~3人ずつで恒例のよつ葉の生産者交流会に参加して、日本各地の生産者とも交流できました。最初に来てくださった松原さん(当時、商品企画担当)が「ノラの会は他の団体と違って、メンバー一人ひとりの名前や顔が頭に浮かぶんですよね」と一言。女性が多くて個性派ぞろい、だからでしょうか。そうしたなか、2018年4月に代表の大内文雄が急逝しました。年頭から身体に変調をきたし、脳の難病であることが判明してわずか2カ月後にこの世を去ってしまいました。知らせを聞いて病院まで駆けつけてくださった津田道夫さん(能勢食肉センター)は、枕元で「大内くん、がんばれ」と何度も励ましてくださいました。
当初、11人だったノラの会も、若手メンバーらが別の仕事に移り、現在の正規メンバーは6人。高齢化も進んでいますが、同じ年金世代の助っ人数名がときどき加わってくれて、販売規模はこれまでと変わらず、毎年、新製品も生み出しています。ノラの会の「ノラ」は野良仕事、野良猫のノラであり、戯曲『人形の家』の自由を求める女主人公のノラでもあります。しばられず畑作業にいそしみ、うまい食べものづくりに励み、世の中に対して臆せず「戦争反対」「原発反対」とモノ申し、今後も皆さまにおいしいノラ製品をお届けできるよう努めます。またお会いできる日を一同、楽しみにしています。
編集委員からの一言
日本国憲法第12条「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」。
今年の2月8日投開票が行われた衆議院議員選挙で自民党が3分の2以上の議席を得たことにより、憲法改正が行われるのではないかと言われています。憲法改正は日本国憲法第96条に基づき、衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し、その後の国民投票で有効投票の過半数の賛成が得られれば成立します。
国民投票に備えて憲法のことを今一度、学び直したい。ちょうど10年前に、よつ葉の春の交流会で、「明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)」の弁護士さんを招いて開催した「憲法カフェ」のことを思い出しました。主権者は国民であること、国家権力が暴走しないようにするための仕組みとして考えだされたものが憲法であると学びました。
改憲の中身にも緊急事態条項の創設などにも注視し、尊厳ある個人として生きつづけていくためには不断の努力が必要なことを肝に銘じていたいです。
「政治に無関心でいられても、無関係ではいられない」
(奈良産直 松本恭明)
