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よつ葉ホームデリバリー

2026年5月号(181号)-3

 

 自分と家族の

いのちを守るために

― 陸稲(おかぼ)栽培のススメ

 

はたあきひろ

(家庭菜園研究科)

 

 

 

 私は奈良市内で自給生活を20年以上続けています。出荷は一切せず、家族5人分のお米と野菜をつくっています。この生活に入るきっかけは、1995年1月の阪神淡路大震災です。西宮市の実家は全壊。一瞬にしてライフラインの全てが止まり、昨日までお金があれば、何でも買えた食料もほぼお店の棚から消えました。その夜はようやく手に入れたおにぎりを食べながら、いのちの大切さと、いのちの糧、つまり食料の有難さを実感しました。20代半ばだった私は、この体験後、自分と家族のいのちを守るために、食の自立を目指したいと常に考えるようになりました。
 
まずは、野菜づくりに挑戦しました。ところで、私の親や親戚にも農地を所有しているものがいません。そこで仕事を通じて知り合った農家さんから一畝(うね)だけ畑を借りて、本を参考にトマトやキュウリなどを育てたのです。農家さんのアドバイスも良く大満足の出来でした。次はいよいよ、本命のお米づくりです。最初から家族の一年分しかつくるつもりがなかったので、田植え機やコンバインは持たず、人力のみでと考えました。ただ、今どき人力の稲作など誰も教えてくれません。困っていたところ、知人から 故川口由一(よしかず)さんが指導する赤目自然農塾(三重県名張市と奈良県宇陀市にまたがる棚田)を教えてもらい、ここに数年間月一のペースで通いました。
 
川口さんは田んぼは耕さず、苗は手で植え、稲は鎌で刈るスタイルなのでもう完璧に人力でした。刈った稲は竹竿に掛けて乾燥させるので、燃料や電気を使う乾燥機も不要です。脱穀は昭和初期製の足踏み脱穀機と、明治時代の唐箕(とうみ)で行います。唯一籾摺り(もみすり)だけはさすがに小さな機械を使います。お米は常温で玄米貯蔵すると酸化するスピードが増すので、通常冷蔵庫に保管しますが、籾(もみ)貯蔵なら常温でOKです。酸化はもちろん虫やカビも発生しません。
 
ところで、野菜は庭の菜園や貸農園での栽培ですが、お米はご存知の通り水田です。ただし、「貸農園」はあっても「貸水田」は聞いたことがないと思います。実は水田には水利権という大きなハードルがあるので、水路からここに水を引き入れられるのは、地域の水利組合員に限られます。私のような地域外の人間がこの組合に加入するには、地域の方々と十分な信頼関係を築き、認められなければなりません。もし、皆さんが「お米をつくりたい!」と思っても野菜づくりのようにすぐにできるというものでもないのです。そこで、今回は水田がなくても畑で育つ陸稲の紹介をしたいと思います。私の地域では水利権がなくても、水路の水をジョーロやバケツを使って汲みあげることは許されているので、陸稲なら栽培しやすいです。
 
ところで、なぜ私が陸稲づくりに挑戦しようと考えたのでしょうか。私の田んぼのすぐ脇には水路があり、いつでも水を引き込めるので、確かに今までは渇水で困ったことはありません。ただ、この水は動力を使って河川から汲み上げています。もし何らかのトラブルで停電すれば、水は供給できません。今後、気候変動や災害などで電気が止まる事態にならないとは限らないのです。そのような理由から、昨年は久しぶりに陸稲づくりに挑戦したのでした。

 

 

●陸稲ってご存じですか?

 

 私たちが一般的に食べているお米=水稲(すいとう)は水田で育てられます。一方、今回紹介する陸稲は、畑で栽培できるお米です。水稲に比べ、水分条件がより厳しい環境の畑に適したイネと位置づけられています。ただ水稲と陸稲は植物学的な差異は少なく、元々陸稲として栽培されてきたものもあれば、水稲から品種改良されたものもあります。どうも日本では縄文時代から陸稲が栽培されていた形跡があり、水稲より起源が古いという学説もあるようです。加えて灌漑設備がまだ、さほど整っていなかったであろう太古の時代においては、陸稲がメインだったことも十分考えられています。さらに時代がさかのぼった中世から近世にかけて、陸稲は南九州や北関東などでは広く栽培されていたようです。
 

①陸稲の種まき

 

 

水稲の場合は植つけ方法として直播(じかまき)と田植えの二種類があるのですが、陸稲では種籾を畑に直播する方法が一般的です。つまり陸稲なら、田植えで必要な早苗の育成や田植えなどの手間のかかる作業を省けることになります。ただ今回のわが家の栽培では、直播後のスズメ被害の心配があったので、トレイに種まきして早苗をつくることにしました。

 

②陸稲の田植え

 

写真がタマネギ収穫後の穴あき黒マルチシートを利用した陸稲栽培です。水田に比べて雑草が生えやすい畑では、除草対策は必須です。また陸稲栽培でもさすがに乾燥は避けたいので、穴あき黒マルチシートは有効と考えました。畝高は10㎝ほどです。
 


 

 

②陸稲の成長

 

さまざまな株間で育てましたが、株間30㎝の苗が最も育ち、株の分けつや穂の付きも良かったです。また、陸稲のウルチ種とモチ種の2種を植えてみましたが、成長スピードや草丈などの差はさほどなかったです。

 

②陸稲の収穫

 

収穫量は面積当たり水稲の半分程度でした。今回育てた品種は早生(わせ)種だったので、スズメ対策をする必要がありました。タカに似せたカイトを飛ばしたり、テグスでスズメ除けをする必要がありました。

 

②食味と今後の課題

 

粒は小さく、粘りはやや少ない気がしましたが、風味はしっかり感じられておいしかったです。全て食べ切らず、一部は来年以降の種籾として保存して、今後も水稲とともに大切に育てていきたいと考えています。稲穂全体が白くなり、中身が入らない状態を、「白穂(しらほ)」と言いますが、今回は残念ながらこれが出てしまいました。お米の花が咲く出穂(しゅっすい)前後に水不足だったことが原因と考えられます。次回は気をつけたいと思っています。
 

陸稲栽培の実り