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2026年6月号(182号)-3

 

 国際法違反の「不処罰」を当たり前にしないために

― 米国の「対テロ戦争」の名の下で

 

金城 美幸

(名古屋学院大学講師)

 

 

 

 米国のトランプ政権が各地で次々に行う侵攻。皆さんはどんな思いでニュースを見ているでしょうか。今年2026年は米軍によるベネズエラ大統領夫妻の拘束作戦で幕が開けました。「麻薬テロ」の取り締まりが名目でしたが、ベネズエラが領有する石油の利権獲得を狙う作戦だったことが指摘されています。
 
その直後、トランプ大統領はグリーンランド領有の意志を示したかと思うと、2月末にはイランへの攻撃を開始し、最高指導者ハメネイ師とともに多くの民間人が殺害されました。指導者を無力化すれば石油資源を手に入れられるというベネズエラでの「成功体験」がイラン攻撃の判断に影響したとも言われます。現在、米国政権にはホルムズ海峡封鎖など、イランによる予想外の反撃で、収拾のつかない事態にどう責任を取るかのシナリオも全くないように見えます。
 
これらの展開に圧倒され、ともすれば現状をどう理解すべきか、世界はどこに向かうのか、見失いそうになるかもしれません。あるいは、難民キャンプやインフラ・学校・医療施設の破壊などの事件にも鈍感になり、いつの間にか日常のニュースになってはいないでしょうか。しかし、パレスチナに関わる立場から現状を見ると、一連の米国の侵攻は「無」から起きたものではありません。それは米国の中東政策、特に同盟国イスラエルへの多大な支援、そのイスラエル支配下に置かれたパレスチナ人の権利と尊厳を奪ってきた歴史の延長線上にあるものです。この歴史を一言で表せば、国際法違反への「不処罰」の歴史(注1)でした。
 
カタールの衛星放送アルジャジーラを見ると、今回のイラン侵攻はかつての米国のイラク攻撃(2003年)と比較されることが多いです。イラク侵攻でも、大量破壊兵器を所持しているとの理由でフセイン政権が解体されました。その後の米軍主導の占領ではフセイン政権の「残党狩り」としてイラク民間人の虐殺、逮捕、拷問が行われたことは中東民衆の記憶に深く刻まれています。しかし、米国が主張した開戦理由が虚偽だったことは、後にイラク国民の手で裁判にかけられたフセイン自身が証言しました。大量破壊兵器がないと分かると、クルド人などの「人権保護」という戦争目的が強調(注2)されますが、クルド人自身も米国の戦争・占領で犠牲となりました。大義なき戦争で多くの民間人が殺害され、難民になり、国内は破壊と相互不信に満ち溢れたのです。
 
にもかかわらず、米国はイラクでの失敗に戦争責任を負わず、補償もしませんでした。まさに不処罰です。イラク侵攻の1年半前、9.11事件の実行犯とされたアル=カーイダ掃討のために行われたアフガニスタン侵攻についても、同様に不処罰のままです。これが21世紀に米国が始めた「対テロ戦争」のたどった道でした。米国の不処罰は、その後シリアにも拡大しました。シリア内戦のさなか2014年に突如名を轟かせた「IS」も、中心メンバーはイラク戦争で被害を受けた人々でした。しかし、ISを歴史的文脈から切り離した悪魔としてしか語らない米国(オバマ政権)は、シリアでも「対テロ戦争」を重ねました。

 

 

●国際法違反の地ならし

 

 シリア内戦には米国主導の軍隊のみならず、ロシアがアサド政権を支援するために参戦し、米国らと同様に都市の封鎖、飢餓の誘発、民間人虐殺を行いました。大国同士がシリアを舞台とした代理戦争で、自らの勢力維持・利権保持のために相手を敵視し、「対テロ戦争」の名の下で取り返しのつかない破壊を正当化してきたのです。2022年2月以来のウクライナ侵攻は、米国が21世紀の中東で行ってきた対テロ戦争を写し鏡とした行為とは言えないでしょうか。
 
しかし、米国の対テロ戦争も残念ながら前史があります。パレスチナでイスラエルが「ユダヤ人国家」として、つまりユダヤ人だけの人種主義国家として、先住民の追放という戦争犯罪を伴いながら建国され、拡大し、それを国際社会が許してきたことこそ、米国の不処罰に先立って存在した歴史でした。
 
イスラエルは長らく、ホロコーストの犠牲者という看板の下、パレスチナ人の追放を「防衛」と呼んで正当化することが「例外」として許されてきました。それは米国による公然たる国際法違反の地ならしでした。いま私たちが目撃している状況は、イスラエルが例外として行ってきた国際法違反を米国が常態化させるという段階であり、それはパレスチナ人や中東の人々の価値を顧みない状況が当たり前になったことを意味します。それが、ガザのパレスチナ人へのジェノサイドを、米国とイスラエルが2年半以上も続けられている背景ではないでしょうか。
 
この歴史のなかで日本はどんな位置にあったでしょうか。残念ながら、かつても今も日本はパレスチナ人への暴力に加担する側にあります。とくに9.11事件時の小泉政権は米国の対テロ戦争をいち早く支持し、イスラエルと米国の不処罰への加担を深めてきました。高市政権も、「東アジアにおける安全保障上の脅威」をあおり、平和のための努力こそ必要な近隣諸国をむしろ敵視して、欧米諸国の最新兵器を配備した自衛隊の基地で南西諸島・琉球にさらなる犠牲を強いています。また、ウクライナ侵攻やイスラエル支援で在庫の少なくなった米国の武器庫を満たすべく、日本の軍需企業が利益を上げようとしています。
 
国際社会では今、イスラエルとその暴力を支えるグローバル加担企業や国家機関へのボイコット(Boycott)、資本引揚げ(Divestment)(注3)、制裁(Sanction)を求める「BDS運動」が広がっています。日本でも、防衛省が購入予定の攻撃型ドローンに、ガザでジェノサイド遂行をしてきたイスラエル軍事会社製のドローンが採用される可能性があります。また、産業用ロボット製造会社FANUC(ファナック、本社は山梨)のロボットが、ガザで使用される砲弾を製造するイスラエルの軍需会社エルビット・システムズで稼働しています。
 
他にも、年金積立金がイスラエルの軍需会社や加担企業に投資されているなどの問題が判明しています。米国・イスラエルの不処罰に対する私たちの加担は、象徴的なものではなく、経済・軍事分野での直接的な加担です。私たちの日常が、パレスチナ人の抑圧に加担している。この現実を止めるための行動を皆さんと一緒に練りあげたいと思っています。

 

 
(注1)…国連憲章や条約、国際慣習法など、国家間の合意や国際社会のルールを破る行為への責任が果たされない状況を指す。現在までイスラエルは国連総会・安保理での説明責任を果たさず、国際司法裁判所によるジェノサイド阻止を求める暫定命令も履行しておらず、国際刑事裁判所は首相・元国防大臣への逮捕状を発行するに至った。この状況を止めるにはイスラエルへの経済制裁を含む国連加盟国の積極的行動が不可欠となる。
 
(注2)…人口約3000万人ともいわれるクルド人はイラク、シリア、イラン、トルコに拡がって居住する「世界最大の少数民族」。各国で民族運動の弾圧が起きてきたが、米国はイラクのフセイン政権下でのクルド人などの弾圧をイラク侵攻の理由として挙げた。
 
(注3)…投資家や企業が対象国や特定の事業、プロジェクトから資金や資本を回収・撤退させる行為。